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 2018年に塩野義製薬が発売した抗インフルエンザ薬の「ゾフルーザ」。1回飲むだけで治療できる手軽さが注目されたが、最近は耐性ウイルスの話題ばかりが報道で取り上げられている。そんな状況に業を煮やしたのか、10月23日、塩野義製薬が報道陣を対象にインフルエンザに関するセミナーを開催。冒頭で手代木功社長は「インフルエンザは国民の関心が高い」「他の薬剤も含めて公平な報道をお願いしたい」などと語った。

 セミナーで登壇したのは日本臨床内科医会インフルエンザ研究班リサーチディレクターの池松秀之医師。同研究班では2002~03年のシーズン以降、迅速検査キットでインフルエンザの診断が付いた臨床の症例を対象に、発症時、初回内服、解熱までの時間を測定する研究を行ってきた。

登壇した池松秀之医師は感染症の専門家

 また、治療前の患者から分離したウイルスの中に「タミフル」(中外製薬)、「ラピアクタ」(塩野義製薬)、「リレンザ」(英グラクソ・スミスクライン)、「イナビル」(第一三共)という既存の4つの抗インフルエンザ薬に耐性を持つウイルスが存在するか否かを、過去9シーズンにわたって調べてきた感染症の専門家だ。

 その池松医師の長年の研究に基づく講演の要旨は以下のような点だ。

  • 抗インフルエンザ薬の効果自体は、薬によって大きな違いはない。それぞれ内服薬や吸入薬、注射薬といった違いがあり、ゾフルーザは投与後にウイルスが残っている割合が少ないという特徴がある。

  • ゾフルーザの投与後の患者には、耐性を持ったウイルスが一定頻度で検出されるが、タミフルでも、薬の投与後に患者からは耐性ウイルスがある程度の頻度で見つかる。ただ、耐性ウイルスが出たことが治療効果に影響するかどうかを判断する十分なデータはない。

  • タミフル、ラピアクタでは治療を受ける前の患者から耐性ウイルスが見つかることもある。08~09年のシーズンにはタミフル耐性を持ったウイルスが非常に多く見られたが、翌年以降は例年の状況に戻った。リレンザ、イナビルの耐性ウイルスに遭遇したことはない。

  • ゾフルーザを予防的に投与した臨床試験では、投与後に耐性ウイルスを持つ人が何人か見つかったが、プラセボ(偽薬)だけしか投与していない人には耐性ウイルスは見つかっていない。

  • タミフルの耐性ウイルスが流行した08~09年はタミフルを投与した患者で解熱までの時間が長くかかる例が多かった。耐性ウイルスに感染した患者に対して、抗インフルエンザ薬の効果が弱まったためと考えられる。

 こうしたデータを紹介しながら、「今のところゾフルーザへの耐性ウイルスは、薬の投与後の患者でしか検出していないが、ゾフルーザの未使用者にも耐性ウイルスが見られたという報告もある。耐性ウイルスが広がっていくとしたら心配すべきだが、だからと言って、全部使うのをやめようというのは極端な議論だ」と指摘した。

 ちなみに、日本小児科学会は10月21日、「12歳未満の小児に対してゾフルーザの積極的な投与を推奨しない」とする内容を含むインフルエンザ治療指針を発表している。日本感染症学会も12歳未満の小児については「慎重に投与」とする提言をまとめた。これらの点について池松医師は、「まだ使い始めて1年しかたっておらず、何が起こるか分からない状況で慎重に使おうということだ。絶対に制限すべきだというレベルではない」とコメントした。

 セミナーで池松医師が何度も繰り返したのは、「よく分からない」「十分なデータがない」といった点だ。例えば、インフルエンザウイルスには幾つかの種類があるが、「今年どのタイプが流行するのかもはっきりしたことは言えない」と指摘した。塩野義では継続的にサーベイランス調査を行っていく考えを示しており、今後、そうしたデータに基づいて様々なことが明らかになるのを期待したい。

 一方で、かつてに比べれば、幾つか新しい抗インフルエンザ薬が登場し、インフルエンザへの対抗手段は増えている。また、各行政機関では、高い病原性を持ち、感染力の強い新型インフルエンザが発生した際の行動計画などを策定して備えている。だが、自然災害が、想定を上回る勢いで襲い掛かってくる場合もあることを、我々は何度も経験してきた。特に今年は9月上旬に沖縄県でインフルエンザ警報が発令されるなど、インフルエンザウイルスが例年とは異なる挙動を見せている。ゾフルーザ耐性ウイルスだけでなく、インフルエンザの流行全体に対して、警戒すべきかもしれない。

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