インドネシアを拠点にライドシェア・配車サービスを展開するゴジェックの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のナディム・マカリム氏が第2期ジョコ政権に入閣することが明らかになった。ジャカルタ・ポストなど現地報道やゴジェックの発表によれば、21日、ナディム氏はジョコ大統領と会談。この場で入閣要請を受けたという。

ゴジェックCEOを退任し、第2期ジョコ政権で閣僚に就任する共同創業者ナディム・マカリム氏(写真:ロイター/アフロ)
ゴジェックCEOを退任し、第2期ジョコ政権で閣僚に就任する共同創業者ナディム・マカリム氏(写真:ロイター/アフロ)

 1984年生まれのナディム氏は米ハーバード大学経営大学院で経営学修士号(MBA)を取得後、2010年にゴジェックを創業した。配車・ライドシェアから、これらを利用した配送サービス、料理の出前サービス、それに電子決済サービスなどを相次ぎ展開し、ナディム氏は創業から10年もたたずしてゴジェックを世界有数のスタートアップに育てた。その評価額は100億ドル(約1兆900億円)と、世界で20社前後しかないデカコーン(評価額100億ドル以上の未上場企業)の一角を占める。

 もっとも、インドネシアのスタートアップ業界は今回の人事を大きな驚きをもって受け止めてはいないようだ。「ナディム氏とジョコ大統領との関係は極めて近く、(入閣について)噂も随分前から出ていた」(インドネシアのスタートアップ業界関係者)からだ。

 ジョコ大統領はナディム氏をはじめとするインドネシアの有力起業家との関係を重視し、定期的に昼食会を開き彼らの意見に耳を傾けてきた。また関係者によれば、ナディム氏は近年、政界でのロビー活動に注力してきたという。ゴジェックが規制の対象になりやすいライドシェアを国内で急拡大させるのに成功し、さらにライセンスが必要な決済事業にも進出できた背景に、ジョコ大統領とナディム氏との強いパイプがあったと見る向きがある。

古くて新しい関係

 ゴジェックのライドシェア・配車サービスには200万人余りのドライバーが登録し、アプリのダウンロード数は1億3000万回を超える。公共交通機関が未発達のインドネシアにおいて、既にゴジェックは「国民の足」として定着している。さらに同社が手掛ける決済サービス「ゴーペイ」は銀行口座を持たない人々にも現金に代わる新しい決済手段を提供した。その利用者の数は約1000万人に上ると言われる。「ゴジェックは(規模、影響力ともに大きくない)日本のスタートアップ企業の目線ではもはや捉えられない。人々の生活を支える巨大インフラ企業とみるべきだ」(同)。

 ゴジェックを巨大インフラ企業に成長させたナディム氏の起用は、インドネシアをデジタル経済大国にすることを目指すジョコ大統領の切り札と言える人事だ。しかも政治家と起業家とが緊密にタッグを組む戦略は、東南アジアの経済成長をけん引したモデルを踏襲しているとも言える。