10月22日、エーザイと米バイオジェンは3月に治験を中止すると発表していたアルツハイマー病治療薬について、臨床試験のデータを新たに解析したところ良好な結果が得られたとして、「2020年の早い段階で米食品医薬品局(FDA)への承認申請を目指す」と発表した。
発表は株式市場に驚きをもって受け入れられ、バイオジェンの株価は同日の取引時間中に26%上昇。エーザイの株価も23日、一時ストップ高となっている。

大きなサプライズだったのは、ほぼ絶望的と見られていた「アミロイドβ仮説」に基づく医薬品に、承認の可能性が出てきたとする内容だったからだ。
アルツハイマー病の発症のメカニズムが実はよく分かっていない。アルツハイマー病患者の脳内には、細胞外にアミロイドβたんぱく質を主成分とする老人斑が見られること、神経細胞内にタウたんぱく質が蓄積して生じる神経原線維変化が見られること、神経細胞の萎縮や脱落が見られることが分かっているが、何が発症の引き金になっているのかなどは解明されていない。
有力視されているのは、長い年月をかけてアミロイドβが脳内に沈着して、それがタウたんぱく質による神経原線維変化を起こして、最終的に神経細胞が脱落するというアミロイドβ仮説だ。この仮説に基づいて、これまでに数多くの医薬品の開発が進められてきた。例えばアミロイドβを減らす抗体医薬やワクチン、アミロイドβをつくり出す酵素の働きを阻害する低分子薬の開発などに数多くの製薬企業が挑んできたが、そのほとんどが開発中止に至っている。その中で、アミロイドβ仮説に基づく創薬に果敢に挑んできたのがエーザイとバイオジェンの連合チームだ。
ところが、3月にバイオジェンとエーザイは、アミロイドβに対する抗体医薬のアデュカヌマブの臨床試験を中止すると発表。9月にはアミロイドβをつくる酵素の阻害薬であるエレンべセスタットについても中止を発表していた。アミロイドβ仮説に基づく創薬はほとんどが失敗し、業界の関心がタウたんぱく質を標的とする創薬へと移りつつある中での今回の発表だったのだ。
アデュカヌマブの臨床試験の中止は、独立データモニタリング委員会がこれ以上試験を継続しても良好な結果は出ないと判断したことに伴うものだった。この時点で解析の対象となったのは、臨床試験を開始して早い段階で投与を受けた患者のデータだった。バイオジェンでは2つの大規模臨床試験を行っていたが、2つとも中止すると発表した。
ところが今回、全てのデータを解析し直したところ、一方の試験で高用量の製剤を投与したグループでは主要評価項目を達成する良好な結果であることが分かった。また、もう一方の試験でも高用量の投与を受けた患者についてのみ解析すると、良好な試験結果をサポートするデータが得られたとした。バイオジェンは今回の解析に当たっては、外部のアドバイザーやFDAとも協議したと説明している。
エーザイとバイオジェンは、BAN2401という抗体医薬についても最終段階の臨床試験を実施しているが、こちらの医薬品もアミロイドβ仮説に基づくものだ。このため、アミロイドβ仮説が正しければ、BAN2401に対する期待も高まりそうだ。
ただ、アデュカヌマブがFDAの審査ですんなりと承認されるかは分からない。アナリスト中には懐疑的な見方をする向きも多い。現在、アルツハイマー病に使える医薬品は幾つかあるが、いずれも症状を抑える医薬品で、根本治療につながる医薬品は存在していない。世界中が待ち望むアルツハイマー病を根治する治療薬が登場するか否かは、もう少し見守る必要がありそうだ。
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