ラグビーワールドカップ(W杯)で初のベスト8という結果を収めた日本代表。10月20日の準々決勝、南アフリカ相手に3-26という結果で、桜の快進撃は止まった。同試合の平均視聴率は41.6%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と今年全番組で1位を記録し、全国に設置されたファンゾーンは入場規制が入るほどの盛り上がりを見せた。W杯は準決勝、決勝と続くものの、日本ラグビーにとって、この熱気をどう持続させるかが課題となる。

 その起爆剤になり得るのが、プロリーグの発足である。日本ラグビー協会の清宮克幸副会長が2019年7月にぶち上げた。

(写真:AFP/アフロ)
(写真:AFP/アフロ)
 

 国内最高峰リーグであるトップリーグは、プロリーグではない。16チームは各企業に所属する。中にはプロ選手もいるものの、多くが仕事を抱えながらラグビーを続けるという点で、「社会人リーグ」である。各社の社会貢献活動に依存している側面が強い。清宮氏は今年7月に開かれたスポーツ関連のイベントで、日本ラグビー協会が過去12年のうち7年が赤字決算だったことを明かしている。不安定な財政基盤が日本ラグビーの課題の一つだ。

 清宮構想はこうだ。W杯の開催の12都市を「オリジン12」と呼び、この12都市を本拠地とするプロチームからなるリーグを発足させる。今年11月をめどにリーグの要件を詰め、2021年秋には新リーグを開幕する。現行のトップリーグは2021年春で終了し、日本選手主体の社会人リーグに変える。プロリーグはプロ選手、社会人リーグはアマチュア選手、と2層に分けて活動していく。

 プロ化を成功させる2つのキーワードが「ローカル」と「グローバル」だ。

 名将として知られる清宮氏は、日本選手権優勝に導いたヤマハ発動機ジュビロの監督時代から、地域による地域のためのラグビーチームの重要性を訴えてきた。同氏は日経ビジネスの連載「有言実行」の中でこう語っていた。

 「私が考えているのは、『企業』と『スポーツ』という関係に、『地域』を新たなプレーヤーとして参加させ、好循環を生む戦略だ。欧州や米国では、地域にフットボールスタジアムがあり、プロチームによるスポーツを中心としたコミュニティーが形成されている。このコミュニティーはそのチームを愛するだけでなく、応援するが故にその地方で消費をするという生活習慣を持っている。日本でも、地元チームをトップとしたコミュニティーを育てたい」

 例えばサッカーのJリーグは、1993年のプロ化に伴って企業から地域へ移行した最たる例だろう。リーグ規約に「地域社会と一体になったクラブ作り」を明記し、地域住民やスポンサー企業、行政に三位一体の支援体制を求めた。企業や行政にとって、チーム活動がそのまま社会貢献になるというメリットもあった。

 バスケットボールのBリーグもローカルを重視し、「アリーナを中心とした地域活性化」を訴える。商店街と連動したイベントや住民学習の拠点としての使用が図られている。さらに防災拠点としての性格などを今後強化していく方針だ。

 清宮構想もこうした方向にあるものの、12都市でラグビー専用スタジアムが3つしかないこと(他の9施設はサッカー、陸上などとの兼用)や、「企業から地域へ」という移行が果たしてうまく進むのか、といった課題がある。11月の構想発表までにこうした点を詰められるかが焦点となる。

 もう一つのキーワードが国際化だ。国内市場だけを守備範囲とすると、トップリーグの収益性を劇的に改善するのは難しいだろう。インバウンド向けのチケット販売や放映権料の拡大などが欠かせない。国際的なリーグとしてどう設計するかが鍵となる。

 考慮すべき点の一つは、リーグの時期だ。ラグビーは秋から冬にリーグが開催されるのが一般的で、南半球と北半球で開催時期のずれた2つのリーグに所属するプロ選手もいる。実際、日本のトップリーグにも、特に南半球のプロ選手が多く在籍している。例えば、日本が準々決勝で戦った南アフリカ代表31人のうち、実に11人がトップリーグに在籍した経験を持つ。

 新しいプロリーグでも「世界を二分するリーグにしたい」(清宮氏)ならば、他のリーグの開催時期や長さ、他リーグとの掛け持ちの条件などを考慮し、最もプレーヤーの国際化が進むような設計としたい。

 プレーヤーの国際化が進めば進むほど試合のレベルも上がり、放映権料などによる収益性も上向くはずだ。世界中からプレーヤーが集まり、世界中に観客がいるという日本で例のないプロリーグとなれるのか。ラグビー界の知恵が試されている。

   
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