「手数料体系を包括的に考える時期に来ている」と語るみずほ銀行の藤原弘治頭取。口座維持手数料導入については否定した(写真:吉成 大輔)
「手数料体系を包括的に考える時期に来ている」と語るみずほ銀行の藤原弘治頭取。口座維持手数料導入については否定した(写真:吉成 大輔)

 みずほ銀行が窓口やATMでの手数料の引き上げを相次いで決めている。2019年8月に窓口での両替、振込手数料の引き上げを発表。その2カ月後の10月に今度はATMの振込手数料の引き上げを決めた。マイナス金利政策によって金融機関の経営が圧迫されていることが理由の一つだが、社会のデジタル化による顧客の取引動態が大きく変化していることも背景にある。

 ATM振込手数料は20年3月1日から引き上げとなる。例えば、ATMを使って現金を同行間で3万円未満を振り込む場合、改定前は110円だったのが、改定後は220円となる。また、ATMを利用してキャッシュカードで3万円未満を振り込む際、改定前は同行の同一店内が無料、同行の他支店宛ては110円だったが、いずれも220円となる。一方、インターネットバンキングの振込手数料は据え置く。

 さらに、みずほ銀に口座を持つ顧客が入会できる「みずほマイレージクラブ」会員の無料特典サービスの内容を見直す。これによって20年3月から、コンビニエンスストアに設置しているATMの時間外手数料について、セブン銀行、ローソン銀行は無料の対象外となり、コンビニATMではファミリーマートなどに設置されているイーネットのみが無料となった。ふと、財布の中の現金が少なくなったことに気づき、コンビニに駆け込んで無料で預金を下ろしたい場合、ファミマをまず探さなくてはならなくなる。

 スマートフォンなどが普及し、ネットでの取引が増える中、店舗での窓口やATMでの取引は著しく減少している。実際、みずほ銀でもこの10年間、ネットでの取引が約3.5倍に増える一方、店舗への来店客数が約4割減少している。

 ネット取引が台頭する中、金融機関の経営体制は、既存の店舗運営を中心とした「リアル重視型」から、「ネット重視型」へ転換を図り、リアルとネットの最適なバランスを考えていくことが課題となっている。

 そうした中、みずほ銀が手数料を上げるのは、窓口、ATMなどのリアル取引から、ネット取引へ誘導するためだ。藤原弘治頭取は、ATM振込手数料の引き上げ以前に、こう語っている。

 「マーケティングの世界に4Pという言葉がある。プロダクト(Product、製品)、プレース(Place、流通)、プロモーション(Promotion、販売促進)、そしてプライス(Price、価格)だが、4Pの一つであるプライシング戦略の根幹は金融機関でいえば金利、手数料の設定のことであり、デジタル金融にシフトするインセンティブをつけるために手数料体系を変えることも戦略の一環だ。こうした体系について今、包括的に考える時期に来ている」

 おそらく、これからも手数料を上げるという選択肢をとる可能性があるということだろう。

 実はみずほ銀は、19年7月に新基幹システムへの全面移行が完了して、不便をかけた顧客に一部手数料の無料キャンペーンを実施したばかり。顧客からは「キャンペーンのすぐ後の値上げにはびっくり。(みずほマイレージクラブの)会員向け無料特典の変更内容も複雑で分かりにくい。銀行店舗に来るなということなのか……」と困惑する声も聞かれる。

 ほかのメガバンクも窓口取引の手数料を上げている。三菱UFJ銀行は19年6月から店頭での海外送金手数料(他行宛て、口座振替)を4500円から7500円に上げる一方、ネットでの送金手数料は据え置いた。三井住友銀行も同様に海外送金手数料を引き上げ、20年4月から手形帳と小切手帳(50枚入り)の交付手数料を2000円から1万円に引き上げる。いずれもネット取引への移行を促すことを狙っている点で共通している。ただ、みずほ銀は、こうした送金にとどまらず個人顧客が日常的に使うATM取引の手数料引き上げに踏み切ったことに同業からも驚きの声が上がっている。

 海外でも手数料収入を増やそうとする動きが出ている。デンマークやスイスの銀行では、1億円を超えるような巨額の預金をしている顧客の口座に対しても維持手数料を課す方針を明らかにしている。預金を預けるのに金融機関が手数料を徴収することは決して珍しくはないが、“優良顧客”ですら例外ではなくなっている。特に欧州では、中央銀行のマイナス金利が長期化しており、金融機関の収益の先細りが懸念されているためだ。

 日本では一定の残高に満たない口座に維持手数料の名目で徴収する銀行はないが、環境悪化が続けば、さらなる手数料収入を求めて導入するところが出てくる可能性もある。みずほ銀の藤原頭取は「口座維持手数料に限らず、様々なサービス、商品について常に勉強、研究しているが、口座維持手数料の導入について現時点で決まった事実はない」と否定する。しかし、16年から続くマイナス金利政策で利ざやが縮小している邦銀にとっても、こうした海外の動きは他人事ではなくなってくるかもしれない。

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