不動産やホテルを手掛けるユニゾホールディングスの争奪戦が長期化している。旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)の敵対的TOB(株式公開買い付け)をきっかけに、米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループが対抗TOBをかけ、米投資ファンド、ブラックストーン・グループも買収意欲を示す。HISは撤退したものの、いったい買い手はユニゾの何にひかれてこれだけ執念を燃やしているのだろうか。

「これだけ大きな不動産ポートフォリオが一気に手に入ることなんてまずない。千載一遇のチャンスだからフォートレスもブラックストーンもそう簡単には諦めないはず」。同じくユニゾ買収を今夏に画策した外資系ファンド首脳はこう指摘する。
どうやら日本の不動産マーケットは海外から見るとお宝のようだ。東京のオフィス需要を見ると空室率は1990年代前半のバブル期以来の低水準。都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の空室率は2%を切っており、平均賃料も上昇を続けている。つまり需要は高水準を維持している。
過熱気味で日本の不動産市況はピークに近づいているのではないか、という指摘も確かにあるが、日銀の低金利政策も手伝って東京の主要オフィスのイールド・スプレッド(投資利回りから長期金利を引いた利回り差)はまだ3%近くあるとされる。1~2%の海外主要都市よりも高い。つまり安くお金を借りられるため、不動産価格が上昇してもまだまだ相対的においしいマーケットなのだ。
だから海外勢は日本の不動産マーケットにもっと入りたくてしょうがない。しかしなかなか物件は出てこない。そこに沸き起こったのが今回の騒動だ。1000億円を超える物件が出れば大物、とされる業界において、ユニゾが持つ物件の価値は合計で数千億円あるだろう。
2019年3月期のユニゾの有価証券報告書を見ると、傘下のユニゾ不動産は国内で保有オフィスビル72棟を賃貸している、とある。19年3月末の賃貸等不動産の期末時価は5704億円だ。
ユニゾが不動産とともに手掛けるホテルも注目だという。「ブランド戦略がうまくないため稼働率は低い」(HIS)ものの、逆に言えば「てこ入れすれば改善できる余地が大きい」(ブラックストーン関係者)。関西の大都市など一部地域では、ホテルは供給過剰に陥りつつあるが、インバウンド需要が着実に拡大する中で、ホテルを保有することはマイナスに捉えられていない。全体的には成長産業と見なされているわけだ。
ユニゾを買収すればこうした資産が一気に手に入る。フォートレスは日本では東京ディズニーリゾート近くの「シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル」(千葉県浦安市)に投資していたこともあり、日本のマーケットの魅力は百も承知だ。
対して日本の不動産会社は買い手として姿を表に見せてはいない。一気に不動産を手に入れられるため、購入意欲がないわけではなさそうだが、「物件だけならいいが会社という箱は要らない。管理部門含め人員も余剰になる」(大手不動産首脳)との声が多い。日本に多くの人員を張り付けているわけではない海外勢なら、ユニゾという箱や人員はいてもらっても構わないだろう。実際、フォートレスもブラックストーンも買収提案で従業員の雇用は保証しているとされる。
フォートレスは10月17日が最終日だったTOB期限を3度延長し11月1日まで延ばした。足元の株価がブラックストーンの買収提案価格(1株5000円)に迫る5000円弱で推移し、自社のTOB(1株4000円)が成立しないのが明らかだったからだ。TOB期限を3回も延長するのもまた異例中の異例で、フォートレスの執念を感じる。
ユニゾに関心を示している企業やファンドはまだまだ多いとされ、交渉が長期化すると新たな買い手候補が現れる可能性も否定できない。争奪戦はまだまだ続きそうだ。
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