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図から見えてくるもう一つの事実

 次に、重ね合わせた地図に千曲川の堤防が決壊した地点をプロットしてみよう。

堤防の決壊地点を表示した合成図
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 地図で分かる通り、新幹線車両基地などの浸水が深かったエリアは、黒丸で示した堤防の決壊地点から1km以上離れている。

 一方で、実は損壊などの住宅被害が最も大きかったのは、決壊地点のすぐそばの宅地だった。国土地理院の推定では、浸水深さは2m程度。名古屋大学の中村准教授の調査でも2.0〜2.5mだ。住宅の1階部分がつかる程度の深さだ。新幹線車両基地付近は4mなので、水深は相対的に見れば浅い。にもかかわらず、被害が大きかったのはなぜか。

 ここに、「深さ」だけでは測れない水害の怖さがある。

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決壊地点に近い住宅の被害。基礎を残して建屋が流された。(写真:中村 晋一郎)

 川からあふれ出た水は、徐々に市街地にたまっていくのではない。轟々(ごうごう)と流れる濁流が堤防の決壊によって一気に溢れて流れ出す。この水圧が、住宅に壊滅的な被害をもたらすのだ。名古屋大学の中村准教授によれば、「破堤(堤防が決壊すること)地点のすぐ脇の住宅は、基礎だけを残して家屋が持っていかれた状態だった。氾濫流の『速さ』による被害だ」という。

 つまり、住宅を壊滅させたのは「水の深さ」ではなく「水の速さ」だった。

 「水は高いところから低いところに流れる。この事実をもう一度意識すべきだ。破堤した地点の水深が浅いのは、自然堤防の上で標高が少しだけ高かったから。あふれた水は一瞬で低い方に流れるため、(国土地理院が推計した)水深は浅くなる。浸水の深さと実際の被害はイコールではない」(中村准教授)

 一般的に、ハザードマップには「水の速さ」は描かれない。深さだけに着目すると、被害想定を誤って認識してしまう恐れがある。

 長野市の場合は、速度の代わりに「建物が倒壊する危険がある区域」を図示している。図中の赤丸がそのエリアで、今回、氾濫した水流によって建物が倒壊した地域も含まれている。深さだけにとらわれず、倒壊危険区域なども注意深く見ておく必要がある。

 中村准教授は「長野市と違って、倒壊の危険度が示されていないハザードマップもある。堤防のどこが決壊するかは誰にも分からないので、仮に自宅の近くの堤防が破堤した場合にどのように水が流れるのか、地域の地形などを参考にしながらイメージしておくことが大切だ。自宅からある程度の距離がある地点で破堤した場合でも、氾濫流は時間をかけて押し寄せてくる場合がある。その点にも注意が必要だ」と警鐘を鳴らしている。

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