(写真:ロイター/アフロ)
(写真:ロイター/アフロ)

 記録的な大雨を降らせた台風19号。日本各地の河川で決壊や氾濫が発生し、大きな浸水被害が起こった。そんな中、改めて注目したいのが都心部を流れる河川の治水対策だ。開発が進み、一見すると水の逃げ場がないように思える東京。実は、地下や上流では大規模な治水対策が行われており、今回もこうした治水機能が活躍した。

 有名なのが、「地下神殿」とも呼ばれる首都圏外郭放水路だ。中川、倉松川、大落古利根川など5つの中小河川から水を引き込み、流量を調節しながら江戸川へ排水する。地下約50メートルに建設したトンネルで結ぶ全長6.3キロメートルの施設だ。

 今回の台風では5つ全ての河川で水位が上昇し首都圏外郭放水路が稼働した。「能力はほぼ全て使ったと言える。フル稼働という表現に近い(国土交通省江戸川河川事務所)」。15日午後現在も流入と排水が続いているが、現時点までで排水量は1100万立方メートル。平成27年の関東・東北豪雨では1900万立方メートルを排水するなど、年間で平均7回程度稼働している。

 他にも大きな治水機能を持つのが、荒川だ。埼玉県にある荒川第一調節池は、規定の流入堤の水位を超えた時点で調節池に流入させる仕組みになっている。平成16年の完成以降で調節池に水を流入させたのはわずか1回で、今回が2回目となる。計画上では3900万立方メートルの貯水容量を持っており、前回(平成16年)でも流水量は3万立方メートル前後だった。「そもそも、調節池が稼働することがめったにない(国土交通省荒川下流河川事務所)」といい、今回の大雨の激しさを物語っている。

 江戸川と荒川が流れ込む江戸川区は以前、「ここにいてはダメです」という直球の水害ハザードマップが話題となったが、今回はこうした治水機能が貢献したようだ。

 一方、多摩川流域の世田谷区二子玉川地区では一部浸水被害が発生した。多摩川の治水機能としては堤防や護岸の整備が主となっている。上流にはダムがあるものの、貯水目的で治水ダムではない。また、流域に住宅地が広がることや、流れが急で水を取り込みづらいといった地理的な理由から調節池も備えることができない。ただ、今回浸水が発生した背景には、堤防が一部の場所で未整備だったことも理由にある。「景観を大事にしてほしい」などの声もあがり、一部住民と同意が取れていなかったという。今回は観測史上最高レベルの水位に達したこともあり「今後これ以上の洪水が起こる可能性も考え、現在の計画をもう一度見直す必要もあるかもしれない(国土交通省京浜河川事務所)」と話す。

 都心部では、平成の間に進められた大規模な治水機能が活躍を見せた。一方、地方では被害の大きな地域がある。大型台風やゲリラ豪雨など、今後も水害のリスクが消えることはなく、全国的に水害対策を改めて見直す必要がありそうだ。

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