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 10月9日、スウェーデン王立科学アカデミーがノーベル化学賞に旭化成の吉野彰名誉フェローを選出した。現在のリチウムイオン電池の原型となる電池を考案し、産業の発展に貢献したことが評価された。9日夜、そして翌10日と満面の笑みで記者会見した吉野氏。中でも同アカデミーから「環境問題の解決に役立つ技術」とコメントされたことを喜んだ。

10日午後、妻の久美子さんとそろって記者会見に応じた旭化成の吉野彰名誉フェロー

 ノーベル賞受賞発表から一夜明けた10日午後、都内で改めて吉野氏の記者会見が開かれた。同席した妻の久美子さんは、吉野氏のどんなところに引かれたのかとの質問に「まず、誠実であると感じられたこと。何事も一生懸命だというところ。社会悪に立ち向かっていくということを感じられたこと」と答えた。

 吉野氏が当時、感じていた社会悪とは公害問題だったようだ。実際、吉野氏はリチウムイオン電池が環境問題の解決につながることに強い意義を感じている。

 「EV(電気自動車)の普及で車をクリーンにするだけではない。EVに積んでいる電池が巨大な蓄電システムを兼ねるようになる。そうすれば太陽光発電や風力発電などの変動が激しい発電方法が普及しやすくなる」。9日夜の会見で、吉野氏はリチウムイオン電池と環境問題の関係をこう説明した。

 電話機、パソコン、掃除機、工具……。リチウムイオン電池のおかげで世の中の様々なものから電源コードが取り外された。カメラや携帯型ゲーム機、音楽プレーヤーなどは電池交換の煩わしさから解放された。

 「リチウムイオン電池はIT革命というとてつもない革命とともに生まれ育ってきた」と吉野氏は振り返る。ところが当の本人は「私自身は携帯電話を持つことに抵抗があったので、最近まで持たなかった」と会見で苦笑いした。5年前に買ったスマートフォンが、自身が所有する最初の携帯電話機になったという。

10日午前、ノーベル化学賞受賞決定から一夜明け、社員から花束を贈られ笑顔を見せる旭化成の吉野彰名誉フェロー(写真:共同通信)

 「発電によるCO2(二酸化炭素)排出問題を解決するには再生可能エネルギーで発電する社会システムにしていく必要がある」と語る吉野氏。太陽光や風力などによる発電量の変動を吸収して安定供給するための蓄電システムが必要になるが、「そのためだけに作ると相当な費用がかかってしまう」。そこでEVを通じて大容量の電池を社会に普及させ、それを蓄電システムの一部として利用していく。これが吉野氏の願うシナリオだ。

 「リチウムイオン電池の決め手となるリチウムイオンの本当の姿はまだまだ謎だらけ」と吉野氏は話す。「全固体電池」などの新しい技術の登場で、従来の考え方では説明しきれない現象が出てきたのだという。「リチウムイオンとは何かという原点に立ち返って調べなければならない状況にわくわくしている」。吉野氏の目は今も未来に注がれている。

■変更履歴
10月10日午後の記者会見を受け、一部加筆しました。 [2019/10/10 14:30]

 2019年10月23日(水)開催『Future Mobility Summit:Tokyo 2019』 ――携帯通信の世界では、現行の4Gに比べると約100倍の通信速度が期待される5Gが動きだし、モビリティーを取り巻く環境も大きく変化すると見られています。本サミットでは、こうした中で自動車産業はもとより通信事業者や電機メーカーは何を狙っていくのか。新たなサービスはどこへ向かおうとしているのか。各社のマイルストーンと共に、事業化への羅針盤を探ります。今年創刊50周年を迎える経営誌「日経ビジネス」と、先端技術誌「日経Automotive」の知見とネットワークを集結し、吉野氏(予定)を初めとする国内外から各分野の一流講師を招きます。

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