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 明治は紙パック飲料「ネスレコーヒー」の製造・販売を9月に終了した。ネスレコーヒーは1994年に発売されたロングセラー商品で、明治がネスレとライセンス契約を結んで販売していた。甘さひかえめと無糖の2種類があり、パッケージには「ミルクとよく合う」と書かれ、明治の主力商品である牛乳と組み合わせても楽しめるよう、深みのある味わいに仕上げていた商品だった。しかし、「長期的に販売量が減少していた」(明治広報)ため、終売が決まった。

 コーヒーはサントリーやコカ・コーラといった飲料メーカーだけでなく、味の素AGFやネスレ日本などの食品メーカーも力を入れている。さらにコンビニエンスストアやカフェチェーンといった競合もいる激戦市場だ。

 全日本コーヒー協会によると、コーヒーの国内消費量は2011年から16年まで右肩上がりで成長してきた。しかし、缶コーヒーの減少などで17年は6年ぶりに消費量が減少。18年はペットボトル入りコーヒーのブームで再び増加に転じたが、16年のピークを超えるまでには至っていない。

 中長期的にみれば、国内は人口減少に加え、健康志向によるカフェイン離れでコーヒー市場の先行きが厳しいのは明らかだ。にもかかわらず、市場は多くの企業であふれ、顧客の奪い合いが起きている。

 明治は過熱するコーヒー戦争にいち早く見切りをつけた形だが、ほかの企業は見切りをつけるどころか、立て直しに力を入れる。18年には飲料メーカーが相次いでペットボトルコーヒーを投入。味の素AGFは粉状スティックタイプのコーヒーの拡充に力を入れる。多くの企業がコーヒーに力を入れるのはなぜなのか。

 「コーヒーは茶よりも利益率がいい」。そう打ち明けるのは飲料メーカー関係者だ。消費者の嗜好の多様化に対応するため、メーカー各社は1つのカテゴリーの商品で多様なフレーバーを用意している。日本茶だと緑茶やほうじ茶、玄米茶など、紅茶はダージリンやアッサムなど選択肢は多岐にわたる。そのため、茶の場合だと、1種類あたりの茶葉の調達量が小さくなってしまうのだ。これに対し、コーヒーはミルクや砂糖を追加することで、消費者の嗜好の多様化に対応できる。結果として、コーヒーの方が調達面で規模の経済が働き、利益率の向上につなげやすい。

 また、コーヒーは原材料であるコーヒー豆のほぼ全量を海外輸入で対応しなければならない点が利益率に大きく影響する。日本茶の場合、消費者の食の安全意識の高まりを受けて、国内産であることが好まれ、原材料費が高くなりやすい。一方で、コーヒー豆は輸入での調達となるため、為替リスクにさらされるリスクはあるものの、「国産茶に比べれば、調達価格は抑えられる」(飲料メーカー担当者)。さらに別のメーカー関係者は「コーヒーは最悪、香料でごまかせる」と打ち明ける。

 加えて、コーヒー豆の国際相場が下落していることも、利益率の押し上げに寄与している。米農務省によると、2018~19年度の世界生産量は約1億7400万袋と過去最高の見通し。19~20年度も過去2番目の水準が予測され、世界の消費量を上回りそうだ。さらに最大生産国であるブラジルの通貨のレアル安が下押し圧力となり、コーヒー豆の価格の低下に拍車をかける。生乳や砂糖などの多くの原材料が高騰している中で、コーヒー豆は調達価格を抑えられる貴重な原材料なのだ。

 これらの要因により、コーヒー飲料を手掛ける各社にとって、コーヒーは重要なカテゴリーとなっている。しかし、中長期的には人口減少でコーヒー市場の縮小は避けられない。コーヒー豆の国際相場も、世界的な消費量は増加傾向にある上、ブラジルで干ばつが起きれば、高騰は避けられない。明治は主力商品でなかったため、終売の決断がしやすかったのもあるが、企業によってはコーヒー飲料戦略を見直す勇気も必要だろう。

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