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 星野リゾート(長野県軽井沢町)は10月4日、温泉旅館「星野リゾート 界 長門」(山口県長門市)を2020年3月12日に開業すると発表した。注目されるのは、星野リゾートがこの地でこれまでにないチャレンジに踏み切ったことだ。

開業準備が進む温泉旅館「星野リゾート 界 長門」

 界 長門は星野リゾートの高級温泉旅館ブランド「界」の16カ所目の施設で、テーマは「藩主の御茶屋屋敷」。客室数は40室で、ベッドボードに徳地和紙を使い、床の間に萩焼の置物を置くなど「山口県の武家文化を生かしている」という。料金は2人1室利用時に1泊4万4000円からとなっている。

 星野リゾートは従来、温泉旅館やホテルの再生を手がけながら事業を全国に広げてきた。長門湯本では新たに温泉街全体の再生に取り組む。開業する界 長門は温泉街再生の一環という位置付け。従来の施設1カ所が「点」の再生とすると、今回は温泉街という「面」の再生となる。

 長門湯本温泉は600年の歴史を持つ温泉街として知られる。高度成長期には宿泊者数が約40万人いたが、伝統的な温泉旅館の利用者が中長期的に減少するなか、14年には約20万人と半減。同年には老舗旅館の経営破綻もあった。

 地場産業のピンチに危機感を深めた長門市から、星野リゾートは16年に「長門湯本温泉マスタープラン」の策定を受託。このプランに基づいた「長門湯本温泉観光まちづくり計画」の下、同市や地元の温泉旅館と共に「長門湯本温泉観光まちづくり推進会議」のメンバーとして、面的な再生に取り組んでいる。

 同計画では温泉街のそぞろ歩きがコンセプトで、長門市は温泉旅館がある音信川沿いのエリアの整備に21億円を投資する。これまで水面近くの川床のほか、「紅葉の階段」「ゆずきち坂」などを設置。道路の改良工事も進めている。民間投資も進み、温泉街の顔となる外湯「恩湯(おんとう)」は地元の若手経営者を中心に建て替えを進め、20年3月にリニューアルオープンする。景観ガイドラインに基づき、既存の店舗の改装プロジェクトも進行中だ。星野リゾートでは20年3月に界 長門に「あけぼのカフェ」を開設。温泉街をそぞろ歩く人が自由に利用できる施設で、宿泊客以外も利用できるカフェの開設は界ブランドで初めてだという。

 星野リゾートの進出に対して、地元は当初「黒船が来た」「外からの劇薬」といった懐疑的な見方もあった。星野リゾートの星野佳路代表はこのところ海外案件に注力していて国内の再生案件に直接携わることがほとんどないが、長門湯本温泉では、星野氏はまちづくり推進会議に定期的に出席。再生計画が進む中、一体感が深まっていった。面的な再生はさまざまな立場があり一般的には成果を上げるのが難しいが、「長門湯本温泉の場合、長門市のリーダーシップ、次世代の後継者、外部のノウハウを受け入れる環境があり、観光業以外の地元も前向きであることから、予想以上の成果につながっている」と星野氏は話す。

温泉旅館「界長門」の2020年3月12日開業を発表する星野リゾートの星野佳路代表