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 定額料金を払い商品やサービスを継続的に利用するサブスクリプション。ここ数年で急速に浸透しているこの仕組みを、絵画に応用する企業が登場した。今年1月に設立されたアートテクノロジーズ(東京・港、居松篤彦代表取締役)だ。定額でもっと気軽にアートに親しんでもらいたいというのが狙いだが、そのためには供給する絵画を「大量生産」する必要がある。気軽にアートを楽しむ文化の浸透だけでなく、芸術家の卵を育てる「インキュベーター」的な役割の二兎(にと)を追おうとしている。

 9月25日から29日までの間、東京・代官山で「ART START UP 100」というイベントが開かれている。簡単に言うと、無名の芸術家たちの作品100点をすべて一律1点10万円で売るという展示販売会だ。アートテクノロジーズが公募した絵や彫刻など約500点から審査で絞り込まれた100点が展示されている。

 購入希望者は29日までに展示会の公式ホームページから申し込み、購入希望者が複数いたら抽選となる。現地に足を運べなくても、ホームページから拡張現実(AR)機能でリアルに作品を見ることもできる。代金の10万円はすべて芸術家に還元される。100人はほぼ無名の芸術家たちだという。

 アートテクノロジーズが手掛けたこのイベントには2つの思いが込められている。1つが、これまで絵に関心のなかった層に、絵は数千万円や数億円を出して買うものではなく気軽に触れ合えるもの、という気付きを提供したいという思い。もう1つが、無名の若手芸術家にチャンスを与えたい、というものだ。つまり、絵に縁がないと思い込んでいる人たちと、作品がまだ世に認められる機会がない芸術家との架け橋になろうとの取り組みと言える。

 アートテクノロジーズを立ち上げた居松代表取締役は画廊の息子。「今日履いているその靴、いいね、と同じようなコミュニケーションツールに絵もなるはず。もっとアートを手軽な文化にしたい」という思いで会社を起こした。
 事業内容は法人向け絵画のサブスクだ。月額5万円などの継続課金で企業のオフィスに飾る絵を供給する。企業は経費でアートを「疑似保有」することになる。個人を対象にすると盗難や破損などのリスクもあるうえ、やはり購入という形態がメインになるため、法人向けの方がビジネスとして成立しやすいと考えた。また「オフィスに絵を飾ろうという機運は、若手経営者の間で非常に高まってきている。(絵画コレクターとしても知られる)ZOZOの前沢友作氏が明らかに火をつけた」(居松氏)。

 契約した企業には一定期間で新しい絵が次々と供給されるため、飽きがこない。絵を飾っている企業の多くが置かれている状況は「何年も何十年も一つの絵がそこに飾られっぱなしでみんなの話題になることももうない。それでは絵も死んでしまう。どんどん変われば話題、会話のきっかけにもなる。もちろん気に入ったものは購入にも切り替えられる」(同)という。

 ビジネスモデルに欠かせないのは絵の調達だ。絵画の世界は、ある一つの作品をどれだけ高く売って大きく稼げるかが基本のビジネス。言い換えれば量より質の世界だ。だがアートテクノロジーズは月々の継続課金で収益を得る、つまりアートのストックビジネスに挑戦する「異端児」。そこには絵のコンスタントな供給が欠かせない。

アートテクノロジーズの居松篤彦代表取締役

 アートテクノロジーズが芸術家の育成に力を入れる理由は、芸術家を応援したいという高尚な理由ももちろんあるが、多くの芸術家を育てていかないと供給する絵画を手当てできない、というビジネス面の理由もある。年に1点しか描かないような高名な画家ばかりだと手ごろな値段で次々と絵を供給していくサブスクビジネスは成り立たないのだ。

 とはいえ無名の芸術家の卵たちにとって、作品を世にどんどん送り出してくれるこれまでになかったインキュベーターの存在は追い風となるに違いない。「最終的には歴史に残るアーティストをプロデュースしたい」と語る居松氏。この夢を一緒にかなえる芸術家がいつか現れるだろうか。

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