(写真:共同通信)
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 政府は9月20日、全世代型社会保障検討会議の初会合を開き、年金・医療・介護・労働など幅広い分野の改革論議をスタートさせた。高齢化社会の進展を見据え、意欲のある高齢者の就労を促すなど制度の支え手を増やす環境整備に軸足を置く姿勢が鮮明だ。次期衆院選を控える中、医療や介護で給付と負担の見直しにどこまで踏み込めるかが焦点になる。

 検討会議は安倍晋三首相をトップに関係閣僚と有識者で構成する。首相官邸主導で議論の方向性を示す体制を整え、与党と調整しながら厚生労働省の審議会などに具体的な改革案を詰めてもらう方針だ。

 全世代型社会保障への改革を看板政策に掲げる安倍政権は消費税の使い道を見直し、10月からの消費税率10%への引き上げに合わせて、幼児教育・保育の無償化が10月から、高等教育の無償化は2020年4月からそれぞれ始まることが決まっている。その一方で、年金や医療など高齢者に関する制度改革論議は今夏の参院選への影響を考慮し、先送りしていた。

 政府が幅広い社会保障改革に乗り出すのは、人口が多い団塊の世代が75歳以上になり始める22年度から社会保障費が一段と膨張することが見込まれているためだ。政府の試算では、高齢化の進展で40年の社会保障給付費は約190兆円と今より6割も増える。改革を先送りして今の仕組みを続ければ、給付と負担のバランスが崩れるのは避けられない。

 検討会議では今後、年金や介護、高齢者の就労拡大といったテーマの検討を進め、年内に中間報告をまとめる。年金と介護の制度改革に関しては、来年の通常国会での法案提出を目指す。

 年明け以降は医療が中心テーマになる。20年6月に閣議決定する経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に医療制度改革の内容を盛り込み、関連法案を21年の通常国会に提出するスケジュールが想定されている。

 もっとも、支え手を増やす制度改革に関しては、高齢者の就労を促すため70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする法改正や、中途採用・副業を後押しする仕組みの整備など既に政府内で方向性が固まっている項目がほとんどだ。年金についても70歳までとなっている年金の受け取り開始年齢を延ばして75歳まで選べるようにすることや、今より多くのパート労働者が厚生年金に加入できるよう厚生年金の要件を見直すことなどがほぼ既定路線になっている。

 このため、改革の焦点は介護と医療で国民の負担増や給付カットに踏み込めるかどうかになる。介護サービス利用時の自己負担の見直しや、外来で医療機関を受診した人の窓口負担に一定額を上乗せする「受診時定額負担」の導入などが検討課題に上がっている。

 ただ、社会保障財源としてのさらなる消費増税について、安倍首相は7月に「今後10年くらいは上げる必要がないと思う」と発言。政権内では次期衆院解散・総選挙への影響を懸念し、今回の改革論議で税率10%後の道筋には触れないというのが共通認識だ。

 さらに、検討会議の仕切り役を担う西村康稔経済財政・再生相は20日の検討会議後の会見で「財政のみの視点で必要な社会保障をばっさり切るようなことは考えていない」と語った。安倍首相の周辺は「憲法改正論議にも響きかねないだけに、負担増や給付のカット論議で無理はしない」と漏らす。