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 日本感染症学会などの4つの医学会がこのほど抗生物質(抗菌薬)の安定供給を求める政策提言を発表した。手術に必要な抗菌薬が国内で不足しており、製薬企業を支援しなければ医療インフラに深刻な影響をもたらすという内容だ。特に「セファゾリン」と呼ばれる注射用抗菌薬の不足が深刻だと説明。以前からある、こうした抗菌薬の値上げを求めた。医師が特定の製品の価格に言及して提言をまとめることは珍しい。

抗菌薬は医療現場で必要不可欠な存在だ(写真:PIXTA)

 抗菌薬不足の発端は、原材料をつくる中国メーカーの工場の稼働停止。排水処理に問題があるとして、中国当局の指導で操業できなくなった。日本で流通する抗菌薬は日医工などのジェネリック薬(後発薬)メーカーが製造しているが、その原材料となる化学合成物質は中国から調達している。

 セファゾリンの原材料となる物質はインドやイタリアなどでも製造されている。ただ、不純物が多く日本の規格に適合していないのが実情だ。このため、日本で抗菌薬を製造する企業は、工場の稼働を停止した中国メーカーに調達をほぼ依存していた。

 そもそもこの原材料は日本で製造することはできないのだろうか。日本の規格に合う高品質の化学物質ならいくらでも製造できるメーカーがありそうだ。だが、日本企業はすでに国内生産から撤退している。

 背景にあるのは、医療費抑制のために政府が医薬品の公定価格(薬価)を下げる「薬価下げ」だ。高額とされた小野薬品工業のがん免疫薬「オプジーボ」なども薬価下げの対象にされ、製薬企業の業績を左右する。

 抗菌薬は使用される頻度が高く市場が大きかったため、1990年代と比較して半分以下まで値段を下げられている。近年は耐性菌出現の懸念から、医療現場では抗菌薬の使用をできるだけ控えるよう推奨されている。

 こうした環境変化により、多くの製薬企業にとって抗菌薬は「もうからない」ビジネスになってしまった。当然、原材料メーカーに対するコスト削減要求も強まり、国内メーカーは相次ぎ生産から撤退。抗菌薬を提供する日医工などのジェネリック薬メーカーも、人件費の安い海外から原材料を調達してなんとか採算ギリギリのラインで事業を継続しているのが現状だ。製造コストと薬価はほぼ同等との指摘もある。

 とはいえ、抗菌薬は医療現場に欠かせない。細菌感染症の治療に活用されるだけでなく、手術後の合併症を防ぐためにも投与されている。抗菌薬が使えなければ、患者を重症化させかねない。日本感染症学会理事長の舘田一博氏は「せめて採算割れにならない薬価を確保して、国内での生産を促す必要がある」と訴える。

 40兆円を突破し、今後も高齢化を背景に増加するとみられている国民医療費。薬価下げなどによる歳出削減は急務だが、場合によっては医療現場に混乱をもたらすことが明らかになった。医薬品のコストパフォーマンスや市場規模だけでなく、医療現場での「重要度」も加味した価格設定が求められている。

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