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 ニュージーランドのオタゴ大学の研究者が9月初め、未確認生物ネッシーの正体は大ウナギである可能性があると発表した。eDNAと呼ぶ最新のゲノム解析技術を使って調査した結果、ジュラ紀の爬虫(はちゅう)類を示す証拠は見つからず、サメやナマズである可能性も見当たらなかったという。この判断を導き出したeDNAとは何なのか?

ネッシーを撮影したとされた写真。後に捏造(ねつぞう)されていたことが分かっている(写真:Keystone / Getty Images)

 生物が固有に持つ遺伝子を解析するゲノム解析技術の進歩は、これまでに数多くの生命の神秘を解き明かしてきた。1990年に始まった国際ヒトゲノム計画では、30億個の塩基対から成るヒト1人分のデオキシリボ核酸(DNA)の配列を解読するのに13年の歳月と約30億ドル近い費用を要した。

 しかしその後、ゲノム解析技術は飛躍的な進歩を遂げ、今や数万円もあればヒト1人分のゲノムを解析できるともされている。解析費用の低下に伴い、様々なヒトや生物のゲノムが解析され、遺伝子の働きや進化の道筋などの研究も深まった。また、病気や健康に関連する遺伝子が突き止められ、医薬品の開発などに結びついてきた。日本では今年から、保険診療の中でがんの治療方針などをゲノム解析に基づいて決定する「がんゲノム医療」も始まっている。

 様々な分野で貢献するゲノム解析技術。その新しい分野として注目されているのが、eDNAだ。eはenvironmentalの略で、環境中のDNAを解析する研究を指す。

 オタゴ大学などによるネス湖のeDNAプロジェクトは、eDNAの実力をアピールするためのものでもある。研究者らは英国最大の淡水湖で2番目に深いネス湖の250カ所から水を採取し、どのような生物が存在するか、その痕跡をDNAの解析を通じて明らかにした。その結果、様々な細菌、魚、昆虫のDNAがあることが分かったが、「我々のデータからは、ネッシーがプレシオサウルスなどのジュラ紀の爬虫類であるというアイデアは支持できない」と、オタゴ大学のニール・ゲメル教授は述べている。また、巨大なサメやナマズではないかとする説に対しても、「我々が採取したサンプルにはサメのDNAもナマズのDNAも無かった」とした。

 ただし、同教授は「モンスターが巨大ウナギである可能性は無視できない」としている。どのサンプリング地域でも大量のウナギのDNAが見つかったからだ。

 eDNAの弱点は、水などのサンプル中のDNAが必ずしも個体数を反映するとは限らないことだ。例えば、産卵期の魚は水中に多くのDNAを放出するため、より多くのDNAが水中から検出されることになる。体の大きな生物もしかりだ。従って、ネス湖から検出された大量のウナギDNAは、巨大ウナギがもたらした可能性もあるというわけだ。