
ラグビーの世界一を決めるワールドカップ(W杯)が20日、日本で開幕する。1987年の第1回大会の開催以来、欧州と南半球のイギリス連邦の国以外での開催は初となる。一見、国際化が進んでいそうなラグビーだが、実は門戸の開放は緒についたばかりだ。
W杯で2度優勝している強豪国、オーストラリアでのラグビーの位置づけは「お坊ちゃんスポーツ」だという。裕福な家庭の子息が通う私立校で親しまれる競技と見られているからだ。人気の面では、サッカーや独自ルールのオーストラリアンフットボール、13人制ラグビーの「リーグ」に劣る。
2大会連続優勝中のニュージーランドが「ラグビー王国」と言われるのは、その強さだけが理由ではない。同国の英雄で日本代表ヘッドコーチも務めたジョン・カーワン氏は「誰でもラグビーをできる環境があるから」と話す。裏を返せば、気軽にラグビーができる国は少ないと言える。
ラグビーは英国で生まれ、オックスフォード大学とケンブリッジ大学の定期戦を伝統の一戦としてきた。上流社会の雰囲気をまとっているのが一種の誇りで、このことが、競技人口の制限とプロ化の遅れを招いてきた。
他の多くのスポーツと異なり、ラグビーの各国代表の選手はその国の国籍を持っている必要がない。一定期間プレーをしていればその国の代表となれるが、もともとは、ラグビーを生み出した英国人が他国の代表となる際に「どうしてそこの国民になる必要があるのか」という発想から生まれたとされる。このことも「上流意識」を反映していると言えそうだ。
このような成り立ちもあり、ラグビーは長らく国際化が進んでこなかった。統括組織の国際ラグビーボード(現ワールドラグビー=WR)の理事は20年ほど前までイギリス連邦に属するいわゆる「伝統国」が9割を占めた。同じ英国で誕生しながら、1900年代前半から世界大会を開催し、世界に広がったサッカーとは対照的だ。
だが、スポーツの国際化が進む中、ラグビーの伝統派も競技人口拡大の誘惑には勝てなかった。1987年にひっそりとW杯を始め、その後、大会を8度重ね、規模を拡大してきた。
7人制ラグビーの五輪競技入りもあって、近年、WRは日本を含めた「新興国」や女性にも理事枠を開放している。ただ「伝統国の既得権益を優先する基本的な構図は変わっていない」(元WR理事の徳増浩司氏)のが実情だ。欧州と南半球の伝統国以外でのW杯開催に踏み切ったのは、WRとして最大級の挑戦だ。
W杯の日本大会組織委員会によると、今大会のチケット収入は350億円となる見通し。182万枚のチケットの9割以上がすでに売れており、従来計画より60億円の増収となりそうだという。「日本を全く信用していなかった」(徳増氏)WRとしては、胸をなでおろしているところだろうか。
ただ、ホスト国としてはWRを満足させるだけで終わりたくないところだ。日本側は当初、五輪やサッカーW杯では当然となっている地元スポンサーの設定を求めたが、認めてもらえなかった。しかもWRには、約130億円の「上納金」を納めなければならない。
「開催させてあげる」というスタンスを変えるにはどうすればよいか。まずは、「伝統国」をはじめ世界から訪日するラグビーファンに、日本での滞在とゲーム観戦を心底満足してもらうことだろう。閉鎖的なWRの伝統派にも「日本で開催してよかった」と思わせることができるか。全国12の開催都市の挑戦が始まる。
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