日本郵政グループのゆうちょ銀行が高齢者に投資信託を不適切に販売していた問題で、同行は13日、違反事案が計1万9591件に上ったとの調査結果を公表した。同グループでは、かんぽ生命が保険販売に関し、顧客に重複した契約を結ばせて保険料を二重に徴収するなど計13万件超の不適切な販売が判明している。今回の投信販売問題でも不誠実さが浮き彫りになっている。

ゆうちょ銀行で1万9000件を超える不適切投信販売があったと公表した日本郵政グループ。不適切な金融商品の販売が次々と明らかになり、グループへの不信感は増している(写真:森田直樹/アフロ)
ゆうちょ銀行で1万9000件を超える不適切投信販売があったと公表した日本郵政グループ。不適切な金融商品の販売が次々と明らかになり、グループへの不信感は増している(写真:森田直樹/アフロ)

 ゆうちょ銀は今年6月、投信販売に関して直営全233店の約9割にあたる213店で70歳以上の高齢者への勧誘・販売に関する社内規則違反があったと発表した。この時点で、違反件数は公表しておらず、社内調査を詳細に進めるとしていた。

 今回、その調査結果を発表した。ゆうちょ銀で1万7700件、委託先である郵便局(日本郵便)を通じた販売で1891件の社内規則違反があったと明らかにした。規則では、70歳以上の顧客に投信を販売する場合、営業担当者は①勧誘前に顧客の健康状態の確認をして管理者から承認をもらい、②購入前に個別商品の理解度を確認する、という流れで契約をすることになっていたが、①を飛ばして、②の手順の際に①についてもまとめて確認していた。不適切な販売に走った原因について、ゆうちょ銀の石橋正彦コンプライアンス統括部長は「『(①②のステップを踏むのは)手間がかかる』『問題がない』と安易に考え、手続きを省略してしまった」と陳謝した。

 こうした結果を受けてゆうちょ銀は「原因が分かったので、調査は終える」としている。しかし、十分な調査かという点で疑問が残る。

 今回、調査の対象とした期間について、ゆうちょ銀は直営店が18年4月~19年2月、委託先である日本郵便が2018年4月~19年3月と、直近のほぼ1年間に設定した。ゆうちょ銀の石橋コンプライアンス統括部長は「社内調査の手法が社員への聞き取りだったので、顧客との取引状況をしっかり把握できる期間が1年間ぐらいだろうと考えた」と説明している。

 しかし、直営店の違反件数1万7700件は、調査対象である全ての高齢者対面取引件数のうちの43%に上る。不適切な契約手続きが組織として常態化していたことがうかがえる。

 ゆうちょ銀と日本郵便が社内規則を定めたのは、日本証券業協会が13年10月に「高齢顧客への勧誘による販売に係るガイドライン」を示したことを受けてのこと。にもかかわらず、わずか1年の調査期間が妥当と言えるのだろうか。「顧客本位の業務運営の一層の推進に全力を挙げて努力したい」(ゆうちょ銀の西森正広・常務執行役)のならば、これで幕引きを図るのではなく、できる限り調査期間をさかのぼって実態把握に努めるべきではないのか。

 保険料の二重払いが発生したかんぽ生命の不適切販売では、調査期間を5年間としている。ある金融関係者は「なぜ、かんぽ生命と同じように調査期間を5年間にしないのか。1年間の調査にして不適切件数を少なくしようと考えているのではないか。そう疑われても仕方がない」と憤る。

 同じ日本郵政グループのかんぽ生命では、保険商品の乗り換え販売時に健康状態などを理由に保険の再契約ができず、無保険状態だった事案が1万8900件あったことが判明。さらにその後の調査で無保険や保険の二重契約など顧客に不利益を与えた事案が次々と発覚した。不正の調査対象期間を過去2年半から5年間に広げた結果、件数が大きく膨らみ、事態を重くみた金融庁は9月11日、立ち入り検査に入り、原因究明を進めている。

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