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(写真:PIXTA)

 昨年6月に導入された日本版司法取引制度(協議・合意制度)の第1号案件とされる三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の贈賄事件で、無罪を主張していた同社元取締役の内田聡被告の判決公判が13日、東京地裁で開かれ、懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決が下った。MHPSの事件では個人が立件された一方、捜査に協力した会社の立件は見送られた。

 MHPSの事件は2015年2月、タイの発電所建設に使う建設資材を港で荷揚げする際、荷揚げの許可条件違反を見逃してもらう見返りに、港湾当局の現地公務員に約3900万円相当の現地通貨バーツを支払ったとされる不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)。この捜査にあたって、法人としてのMHPSが東京地検特捜部と司法取引で合意。報道によれば、80点以上の資料提出や役員の事情聴取に協力し、見返りとして特捜部はMHPSの起訴を見送った。「トカゲのしっぽ切り」。MHPSの振る舞いに対してはこんな声も漏れていた。

 元検事で弁護士の郷原信郎氏は「会社が立件されない代わりに役員クラスの責任を問う必要があった」と指摘する。

 内田被告と共謀したとされる元執行役員と元部長は当初から起訴内容を認め、内田被告より先に執行猶予付きの有罪判決が確定した。無罪を主張していた内田被告が有罪となったことは、会社側が捜査に協力した状況で個人側が反論して覆すのが容易ではないことをうかがわせる。

 「もともと振り込め詐欺などの黒幕を処罰することを想定した制度だったはず」。弁護士の泉澤章氏は日本版司法取引についてこう指摘する。他人の犯罪を明らかにすれば、見返りに不起訴にしたり、罪を軽くしたりすることができるのが日本版の司法取引制度。振り込め詐欺グループなどの末端の人物を動かし、多額の利益をむさぼる黒幕を内部からの訴えによって罪に問うといった事案が想定される。

 だが、実際にはこうした想定とは異なる案件が続いている。同制度の2号案件とされるのが、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が金融商品取引法違反で起訴された事件だ。東京地検特捜部が日産の側近幹部2人との司法取引で得た証拠などに基づいてゴーン元会長らを起訴した。側近幹部2人は捜査に全面協力する代わりに起訴はされなかった。

 日産の例は幹部級の個人の犯罪を暴くという意味ではMHPSとは異なるが、泉澤氏が指摘した「当初の使い方」の想定と違うという点では同じだ。さらに、捜査協力により不起訴や罪が軽くなるなどの見返りを受けることができる制度では、虚偽の供述で無実の人が巻き込まれる可能性も否定できない。日本型司法取引制度の定着に向け、まだまだ残る課題は多い。

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