みずほ信託銀行は、全社員の3分の1にあたる約1200人が認知症サポーター養成講座を受講し、「認知症サポーター」となったと明らかにした。1200人の中には個人営業に関わる全社員のほか全役員も含まれるという。同社は9月3日、業界初の認知症に備えた商品「認知症サポート信託」の販売を始めた。信託銀行の顧客はもともと高齢者層が多いが、全行を挙げて高齢者やその家族が抱える課題に取り組む姿勢を鮮明にした。
認知症サポーターは、認知症の正しい知識と理解を持ち、認知症患者やその家族に対してできる範囲で手助けをする役割が期待されている。社員の3分の1が認知症サポーターとなったことについて、同行の飯盛徹夫社長は「認知症患者が保有する金融資産は2030年に215兆円となり、家計金融資産全体の約1割に及ぶとの試算もある。巨額の預金が凍結されることになりかねず、認知症への対応にどう取り組むかが、我が国の大きな課題だ。我々としても商品を売るだけでなく、顧客に本気で寄り添いたいと考えた」と語る。

今回の新商品は、病院から「認知症」と診断書が出されるまでは顧客本人が自由に預金を管理できるが、認知症の診断が出た後、あらかじめ手続き代理人に指定していた家族らが介護などに必要な資金を引き出せるように切り替わるのが特徴だ。顧客と代理人双方にとって使い勝手が良くなる。これまでの類似の商品は、購入と同時に顧客本人が預金を引き出したり、解約したりすることができなくなっており、硬直的な商品設計が課題となっていた。
また、顧客が認知症になると、国の成年後見制度などを利用しない限り、原則家族らが自由に預金を引き出せなくなる。このため最近では、例えば「母が認知症になったが、母の預金を引き出せないのか?」という問い合わせも多かった。こうした問題を解決するために商品化に踏み切った。
同行が高齢者ビジネスで手応えをつかんだ商品がある。17年8月に販売した「選べる安心信託」だ。見守り訪問などの無料サービスが付いた商品で、そのサービスが評判を呼び、販売からおよそ2年で申込件数が1300件超、取扱金額が500億円超となり、従来の3倍のスピードで販売数が伸びるヒット商品となった。
この結果に驚いたのは同行自身だった。飯盛社長は「信託ビジネスはもうからないといわれるが、今の高齢者は経済が飛躍的に成長した昭和の時代を経てそれなりに資産形成している方が多い。特に75歳を超える高齢者は『資産を増やす』というよりも『資産を守り残す』というニーズが強い。高齢者ニーズを的確にとらえれば商品の手数料は十分取れる」と話す。

今、「人生100年時代」に向けて、認知機能が低下する高齢者側に立った中立的な金融サービスを考える「金融ジェロントロジー(老年学)」の研究が盛り上がりつつある。同行は、同業でライバルでもある三菱UFJ信託銀行や、野村ホールディングス、慶応義塾大学などが中心となって今春に立ち上げた一般社団法人「日本金融ジェロントロジー協会」の会員になり、情報交換を積極的に進めている。
高齢化が一層進む中で、顧客の資産を預かる金融機関の責任は重い。一部では高齢者の認知力低下につけ込んだ金融商品の販売などが問題になっている。今後は信託、証券、銀行など業界の垣根を越えて認知症への理解を深めていかなければ、金融機関が高齢者やその家族から信頼を得ることはできないだろう。
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「1分解説」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?