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 サッポロビールとキリンビールが9月5日から16日まで、都内の複数の飲食店で、共同でビールの販促イベントを実施している。長年、0.1ポイントを競う激しいシェア争いを繰り広げてきたビール大手同士が、商品の販売促進で協力するのは異例だ。サッポロビール クラフト事業部の新井健司マネージャーは、「ビール大手と共同主催で販促イベントを開催するのは初めて。前代未聞のコラボだ」と語る。

 販促を展開するのは、サッポロが4月に発売した「Innovative Brewer SORACHI1984」、そして、キリンと米国の著名クラフトビールメーカー、ブルックリン・ブルワリーが共同出資するブルックリン・ブルワリーの日本法人が2月に全国で販売を始めた「ブルックリン ソラチエース」だ。

異例のコラボを発案した、サッポロビールクラフト事業部マネージャーでInnovative Brewer ブリューイングデザイナーの新井健司氏(右)とキリンビール企画部クラフト戦略チーム兼ブルックリンブルワリー・ジャパンブランドアンバサダーの尹惠楨(ユン・へジョン)氏(左)は販促イベントの発表会見で、互いの商品を持ち握手を交わした

 両商品の共通点は、ビールの香りづけに不可欠なホップに「ソラチエース」という品種を使用している点だ。ソラチエースは、1984年にサッポロビールが北海道空知郡上富良野町で開発し、品種登録したホップだ。苦みが強くかんきつ類やハーブのレモングラスのような個性的な香りが特徴で、クラフトビールが人気の米国で、2000年代に入り多くの醸造所の注目を集めた隠れた大ヒット商品だ。

 日本では1987年にアサヒビールが発売した「スーパードライ」が空前のヒットを飛ばすなど、多くの量を飲めるビールがもてはやされたため、ソラチエースの強すぎる個性があだとなり、商品に使用されることはなかった。サッポロはクラフトビールの文化が根付き、個性的なホップが受け入れられる可能性がある米国に注目。94年にソラチエースをオレゴン州立大学に持ち込む。それが、2002年にワシントン州で著名なホップ農場を営むダレン・ガメシュ氏に見いだされる。

 ガメシュ氏を通じて米国に流通するようになったソラチエースをヒットに導いたのが、ブルックリン・ブルワリーで商品開発を担当する著名醸造家、ギャレット・オリバー氏だ。ブルックリン ソラチエースを09年に商品化し、ニューヨークを中心にヒットさせた。現在、米国では25以上のビール醸造所でソラチエースが使われ、文字通り、クラフトビールブームの立役者となっている。

 では、誕生から35年を経て「凱旋」したソラチエースに求められる役割は何か。異例のコラボを発案した、サッポロビールの新井氏とキリンビール企画部クラフト戦略チームの尹惠楨(ユン・へジョン)氏は、「ビールの楽しさを、もう一度知ってもらうこと」だと口をそろえる。

 国内大手のビール系飲料の出荷数量は、18年まで14年連続で減少を続けている。少子高齢化で飲み手が減少しているだけでなく、選択肢が多様化し、若年層の関心がビールから離れている。ただその中でも活況を呈しているのが、個性的な商品を比較的少量生産するクラフトビールだ。若者を中心に消費が増え、過去5年で国内の市場は約2倍に拡大した。国内ビール系市場の約0.8%(18年、キリンビール推計)とまだ規模は小さいが、ビール離れを食い止めるヒントは間違いなくそこにある。

 クラフトビールの「個性」の決め手となるのが、ホップだ。ホップの風味は、品種だけでなく、栽培する地域の気候風土によっても変わる。サッポロの新井氏は「当社のSORACHI1984にはワシントン州産のソラチエースを使用しているが、国産であればより繊細な味わいが実現できる」と語る。