(写真:AFP/アフロ)
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 「市民の不安を完全に取り除くため逃亡犯条例の改正案を正式に撤回する」

 香港トップの林鄭月娥・行政長官は4日、テレビ演説でこう宣言した。香港で激しい抗議活動を巻き起こしてきた、中国に犯罪者を移送できるようにする逃亡犯条例について、林鄭長官は「条例改正を期限を定めず延期する」「条例案は死んだ」と徐々に表現を強めてきたが、正式撤回はかたくなに拒んできた。そのため「機会があれば通過させるつもりではないか」と市民の不信感は増幅し、抗議活動が活発化する要因となってきた。

 「死んだ」とまで言うなら正式撤回しても同じことのように思えるが、民衆の抗議に屈したことになる「撤回」と言う表現までは許容できない。だが、政権側の強硬姿勢は裏目に出たと言わざるを得ない。

 そもそも香港の民主化運動は2014年の「雨傘運動」の挫折を経験して、下火になっていた。その中で、香港市民を一致団結させたのが逃亡犯条例だ。何かあれば異なる法体系や運用の考え方を持つ中国に身柄を送られると言う「恐怖」は、香港市民の大部分を抗議活動へと駆り立てた。

 香港政府が撤回に踏み切らない中で、抗議活動は長期化し激しさを増していく。抗議の自殺や、警官隊の鎮圧活動による負傷者が相次ぐ中で要求は民主化運動へと拡大しデモで掲げられる「五大訴求」には「普通選挙の実現」が含まれるようになった。香港で民意が政治に反映されない根本原因は、親中派しか行政トップに選ばれない選挙制度にあるとの考えからだ。これは香港政府を飛び越えて、一国二制度の論拠となる「香港基本法」の解釈権を有する中国政府に向けたメッセージにほかならない。

「2人の主人」の間で板挟み

 米ロイター通信は2日、林鄭長官が産業界のリーダーと開いた私的交流会において「選択肢があるなら辞任して謝罪する」「中国政府と市民という2人の主人に仕えなければならず、政治的な余地は非常に限られている」などと発言したと報じ、録音を公開している。かつて林鄭長官は中国政府に辞任を申し出たが却下されたと報じられており、香港における中国政府の影響力を改めて裏付ける形となった。

 林鄭長官はすぐさま「中央政府に辞任を申し出たことはない」と反論し、個人的な発言が録音されてメディアに渡されたことは「全く容認できない」と非難した。だが、意図的とは言わないまでも、常識的に考えればこの状況で多人数に対する重大発言が外に漏れる可能性が大きいことは理解していたはずだ。

 五大訴求の中で唯一受け入れ可能なのは「正式撤回」しかない。そのタイミングを作ること自体が「2人の主人」に仕える林鄭長官にできる最大の抵抗だったのかもしれない。

 局面は一気に煮詰まった。今回、市民が結束した最大の目的は、これで一応達成された理屈になる。五大訴求の残りは「デモの暴動認定の取り消し」「警察の暴力に対する独立調査」「デモ参加者の釈放」「普通選挙の実現」だ。

 つまり、抗議活動が長期化する中で積み重なった遺恨の解消と、民主化要求である。いずれも中国政府が譲歩することは考えにくい内容で、抗議はどこまで、どのくらいの規模で継続されるのだろうか。

 10月1日には建国70周年を迎える中国は、多くの国が香港の逃亡犯条例撤回をトップニュースで報じる中で不気味なほどの静けさを保っている。中国国内では今回の「正式撤回」はほとんど報道されていない。一部ネットメディアでは報道後、すぐにページごと削除された痕跡が残る。譲歩の余地がなくなった中で、香港の次の出方をじっと見ているようだ。

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