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(写真:picture alliance /GettyImages)

 「とりあえず日本が有利な条件で着地してよかった」。8月下旬、安倍晋三首相とトランプ米大統領が日米貿易交渉で基本合意したことを受けて、工作機械メーカーのある幹部は胸をなでおろした。

 工作機械の受注は低迷が続いている。7月の受注額(確報)は前年同月比33%減の1012億円だった。好不況の境界線とされる「1000億円」は超えたが、10カ月連続で前年実績を割り込んだ。厳しい状況が続いているのが海外向けで、欧州やアジアは前年実績を30%以上、下回った。特にアジアの落ち込みは大きく、直近のピークだった17年11月と比較すると、受注額は6割減り、海外向けの中では堅調な需要が続く北米とほぼ同等の水準になっている。

 そうした環境下で、業界関係者が注目していたのが、日米貿易交渉での自動車関税の行方だった。足元の海外向けの需要を支えるのは北米で、日本が有利な条件で着地すれば、北米の自動車産業向けの工作機械需要は減少する可能性が高い。

 それでも工作機械業界関係者は「米国向けが減少するのは覚悟の上。それよりも日本国内の需要が重要。(北米向けと国内需要で)行って来いになるのは、仕方がない」と話す。日本工作機械工業会の飯村幸生会長(東芝機械会長)も「追加関税や操業規制などの部分がクリアになれば、自動車関係の設備投資に対する重荷は取れると思う」と指摘する。

 業界関係者が日本の自動車業界に期待を寄せる背景にあるのは、米国の設備投資の先行き不透明感だ。

 足元では、工作機械だけでなく建設機械も含めて米国の設備投資意欲は旺盛で、需要も堅調だが、「米国での工作機械の受注競争が激化してきた」(大手工作機械メーカー幹部)、「北米のエコノミーサイクルを見ていると、20年の市況については、そろそろピークを打つのではという見方もある」(コマツ社長を務める日本建設機械工業会の小川啓之会長)という声が出始めている。さらに工作機械については、米中貿易摩擦の影響を受けて、米国のサプライチェーンが崩壊し始めているという声もある。ある工作機械メーカーの幹部は「中国と同じ条件でのサプライヤーを探すのにコストがかかり、設備投資に回す余裕がなくなっている」と指摘する。

 米国以外の海外市場に回復の兆しが見えない中で、米国の設備投資まで落ち込めば、「これから長いトンネルに突入するかもしれない」(工作機械メーカー幹部)。そこで、各社が期待を寄せるのが国内の自動車業界だ。国内の7月の受注は411億円あり、工作機械の受注を支える重要な市場だ。日米貿易交渉の行方など先行き不透明感から設備投資の決定を先送りしていた顧客が、設備投資に動き出すのではと見る声が多い。自動車の電動化や軽量化に伴い、半導体やプラスチック部品など自動車産業のすそ野は広がっており、工作機械の需要が幅広い業界で拡大する可能性が高い。

 一方で、国内の自動車産業への依存度が高まることに懸念を示す声もある。「車がこけたら、厳しく長い冬の時代が訪れることになる」(工作機械メーカー経営者)。さらに国内の設備投資はここ数年にわたり、好調な時期が続いていたため、設備投資需要が一巡したと見る動きもある。日米貿易交渉は最悪の結果にならなかったが、工作機械業界に春が訪れるには、まだまだ時間がかかりそうだ。

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