「この1年半で、1800世帯のうち、50世帯がいなくなった」

 京都市東山区六原自治連合会の菅谷幸弘事務局長はこう話す。50世帯が住んでいた場所は簡易宿泊所やホテルに変わったという。

 六原地区は、京都駅から徒歩圏内で、清水寺にも近い。好立地のため、2015年後半から民泊の開業が増え始めた。昨年6月の民泊新法施行を機に、違法民泊はほぼ駆逐したが、代わりに増えたのが簡易宿泊所だ。

 日本で民泊を提供するには主に3つの方法がある。(1)民泊新法の下で届け出る方法、(2)大阪市などの特区で民泊を提供する方法、そして(3)旅館業法に基づいて簡易宿泊所として許可を得る方法だ。

 (1)は年間180日以内という営業日数の制限があるため、届け出は下火だ。(2)の方法では営業日数の上限は設けていないものの、特区に指定された地域は限られている。そこで、増えているのが(3)だ。旅館業法が改正され、客室に必要な延べ床面積の基準が緩和されるなど、簡易宿泊所の開業が容易になった。一軒家やアパートの一室でも簡易宿泊所として営業しやすくなったことで人気に火がつき、18年度の簡易宿所の施設数は16年度比で2割増加した。六原地区の民泊施設もほとんどが簡易宿所だ。

8軒連なる長屋のうち、5軒が宿泊施設になっていた

 実際に記者が六原地区を歩いてみると、10分足らずで20軒ほどの宿泊施設を見つけた。大通りに面した地域にも宿泊施設はあるが、路地裏の長屋が連なっているような地域にも多く立地していた。8軒連なる長屋のうち、5軒が宿泊施設になっている場所もあった。菅谷氏によると、昨年から、不動産会社が地域住民に高い値段を提示して、土地を買い占める動きが加速したという。以前なら1坪90万円程度の土地が、昨年の夏には400万円を超える値段で取り引きされたこともある。高齢の地域住民にとっても、高値で売れるときに売れば老後資金の足しにできる。高齢者を中心に家や土地を売る住民が相次いだ。

 住宅地に宿泊施設が増えることに問題はないのか。観光問題に詳しい日本総合研究所の髙坂晶子・主任研究員は、「コミュニティーの質が変わる」と指摘する。元いた住民が引っ越し、清掃や防災などの地域活動に汗をかかない事業者が増えることで、コミュニティーの維持が難しくなる可能性がある。

 六原地区も試行錯誤している。菅谷氏は、「当初は排除したいと思った」というものの、「要件を満たしていて行政の許可を得ている施設なら、住民が排除できるものではない。最近はどう付き合っていくかに軸足を置いている」と話す。菅谷氏らは事業者に対して町内会への加入を促し、宿泊施設側も住民に説明の機会を設けるなど、妥協点を探っている。

 民泊という新たなサービス形態の浸透によって、宿泊施設の概念が変わりつつある。ホテルや旅館だけでなく、一軒家やアパートの一室も宿泊施設として活用されるようになると、地元住民の生活空間にも宿泊施設が入り込むようになった。生活者との間に摩擦が生まれるのも当然だろう。だが、需要があるのであれば、一般住宅よりも高い収益性の利用法に土地活用が収斂していくのは必然だ。観光やビジネスなどの需要が高いが集積率が低いという「不均衡」を抱えるエリアでは、今後同様の衝突が起こるだろう。京都六原地区は、住民と宿泊施設との間の「妥結点」を探ることで、その衝突を乗り越えようと試みている。

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