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 「都会の喧騒を忘れて、アクアリウム(観賞用水槽)で心が癒やされる空間を提供したい」。東京の中心街、虎ノ門にオフィスを構えたアクアリウムスタートアップのイノカ。社長の高倉葉太氏は、管理に手がかかるアクアリウムを手軽に利用できるサービスの提供を試みるべく2019年4月に起業した。

イノカが提供する大型アクアリウム。横幅150センチメートルの大型水槽の中には、色とりどりのサンゴが育つ

 アクアリウムの鑑賞にはストレスを緩和する効果があるとされ、大型水槽を待合室に備える企業も少なくない。ただ、アクアリウムの運用には負担が大きい。そもそも、水を清潔に維持するためにろ過フィルターのこまめな掃除が必要になる。水を循環させるためのポンプや水温を調整するためのヒーターのラインアップも多種多様で、水槽に適した製品を選ぶのは初心者にとって難しい。

 イノカはオフィスやイベント会場などに大型水槽を設置し、内部のレイアウトデザインから保守点検まで引き受ける。所有すると管理が面倒なアクアリウムをリース契約で提供するということだ。パナソニックが運営するスタートアップ支援施設100BANCH(東京・渋谷)にもアクアリウムを展示していて、職場環境を改善させたい企業などを中心に、顧客獲得を目指す。

 特に「生きたサンゴ」の展示に力を入れており、今後はサンゴの産卵を鑑賞できるアクアリウムの開発を進める。高倉氏は「これまでにない感動を伝えられるだろう」と期待する。

広がる「マニアックな趣味」

 アクアリウムが注目を集めるのは企業向けの市場だけではない。動画投稿サイトYouTubeやSNS(交流サイト)などで個人が気軽に趣味を発信できるようになると、自身のデザインしたアクアリウムを発表する投稿者が増加。自作の水槽や水草などを個人が販売できる即売会なども活況を呈しており、趣味として一定の支持を得ている。

 ただ、前述したように維持には手間がかかり、現状ではマニアックな趣味と言わざるを得ない状況だ。興味を持つ人は増えていても、最初のハードルが高い。

 ここにビジネスチャンスを見出したのが、ドイツ企業のOASE(オアーゼ)。オアーゼは噴水の射出システムなどの水景機器を製造する大手メーカーで、世界中のカジノや高級ホテル、テーマパークの噴水を手がけている。そのオアーゼが個人向け事業として進めているのが、手入れの手間を少なくした小型水槽のbiOrb(バイオーブ)だ。

オアーゼの小型水槽バイオーブ。LEDライトが緑、赤、青などに変化する

 イノカが「生きたサンゴ」を売りにするのとは対照的に、オアーゼが強調するのは「人工のサンゴや水草をレイアウトする」という点だ。まずは生きた魚を入れず、涼しげな雰囲気を楽しむ「疑似的なアクアリウム」としての使い方を提案する。

 オアーゼは樹脂製のサンゴや流木、水草も同時販売していて、これらのセットを組み立てれば、塩素を含んだ水道水を入れられる。掃除する手間が大幅に減るというわけだ。

 興味はあるものの、管理の手間にちゅうちょしている初心者をターゲットに据えた、エントリーモデルという位置づけになっている。

 実際に生きた魚を飼育することも可能で、騒音の元となりがちなポンプやろ過装置も小型にした。この工夫により、初心者が省スペースで手軽にアクアリウムを始められる。日本法人オアーゼジャパンの下村守社長は「まずは手軽に始めて、生きた水草や魚を育てたいと思ったら、中の人工物と取り換えてユーザーがステップアップできるようになっている」と説明する。

 これまでも代理店を通して日本でも販売していたが、販売促進のために日本拠点を新たに構えた。下村社長は「ユーザー向けのイベントを積極的に展開して、日本でも知名度を高めていきたい」と話す。

 働き方や生き方が多様化し、職場やプライベートで生じるストレスは現代人の抱える大きな悩みだ。職場や自宅にもアクアリウムが普及すれば、「ほっとひと息できる時間」が増えて生活の彩りがより豊かになっていくかもしれない。

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