インドネシアのジョコ大統領は8月26日、同国の首都を現在のジャカルタから、カリマンタン(ボルネオ)島の東カリマンタン州に移転すると発表した。466兆ルピア(約3.5兆円)を投じ、2024年にも行政機能の移転を始める考えだ。

東カリマンタン州への首都移転を発表するインドネシアのジョコ大統領(写真:AP/アフロ)
東カリマンタン州への首都移転を発表するインドネシアのジョコ大統領(写真:AP/アフロ)

 国民の反応は様々だが「なぜこのタイミングで(首都移転を)やる必要があるのか。手を打たなければならないことは他にたくさんある」と厳しい見方をするジャカルタ市民もいる。米中貿易摩擦のあおりを受けて石炭やパーム油など資源の輸出が低迷しており、経済成長に減速懸念が出ているからだ。

 それにもかかわらず、ジョコ大統領が首都移転に踏み切ったのはなぜだろうか。

 ジャカルタの人口(約1000万人)と面積(約700平方km)は東京23区とほぼ同じだが、都市機能は劣る。公共交通機関が未発達のため市内には自動車があふれ、世界最悪ともいわれる渋滞が発生している。改善を図ろうにも人口が密集しているため「道路一本通すのも容易ではない状態」(日本政府関係者)だ。さらに地下水の過剰なくみ上げなどにより地盤が沈下しており、都市は水没の危険にさらされている。

 こうした脆弱性を抱える一方、オランダ植民地時代から政治経済の中心として長く発展してきたジャカルタと、その他地域とでは著しい経済格差が生じている。ジャカルタと比較して1人当たりGDP(国内総生産)が10分の1以下しかない州もある。

 一部の都市と地方との間で広がる経済格差は東南アジアに共通する課題だが、特にインドネシアの場合、国の隅々まで富を均等に分配する難易度が高い。約1万3000の島々で構成され、ここに2億6000万人もの人口が散らばっている。民族構成も多様で、その数は300に上るという。

 多様な地域と民族を一つの国民国家に束ねるため、1990年代までインドネシアでは強権的な手法で経済の底上げを図る開発独裁体制が敷かれてきた。ジャカルタから見て「辺境」に位置する地域の人々や、経済成長の恩恵にあずかることができない人々、そして権威主義的な体制に反発する人々の不満は、時に武力をもって抑え込まれた。

 1998年に民主化を果たした後も、格差や社会の分断という課題は根強く残った。ジョコ大統領は国全体の開発を重視し、地方のインフラ整備に力を入れてきた。それでも溝は消えない。たとえばインドネシア最東部のパプア州と西パプア州では、現地系住民に対する差別的な発言や行為があったとして今、抗議デモが起きている。現地報道によればデモは一部で過激化し、治安部隊との銃撃戦で死者も出ているようだ。

 ジョコ大統領が打ち出した首都移転という政策は、この根深い格差や分断を乗り越える一大事業に位置づけられる。

 大統領は26日の会見で「(ジャカルタが位置する)ジャワ島とそれ以外の地域との間の経済的格差が悪化している」と述べ、東カリマンタン州を新首都の建設地に選んだ理由の1つとして「公平な経済分配が可能なインドネシア中央部に位置している」ことを挙げた。ある識者は「首都がインドネシア西部のジャカルタから中部の島に移れば、開発が遅れている東側地域にも徐々にその手を広げられるかもしれない」と指摘する。

 この事業には象徴的な意味合いもありそうだ。ジョコ大統領は「独立して74年がたつ大国にもかかわらず、インドネシアは自ら首都を選び、設計したことがなかった」とも話した。実はカリマンタン島への首都移転という構想は、インドネシアがオランダから独立して以降、浮かんでは消えてきた。これを実現しようとすること、つまり植民地時代から発展した都市に別れを告げ、国家としての理想を体現する新たな首都建設に乗り出す姿勢を明確に示すことで、ジョコ大統領は国民に融和と団結を促そうとしているのかもしれない。

 だが経済の減速懸念が強まる中、莫大なコストと時間を要する大事業にどこまで国民の支持が集まるかは不透明だ。残りの任期が5年を切ったジョコ大統領の求心力が失われれば、首都移転という「夢物語」もまた浮かんで消える運命になる。

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