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 スポーツアパレル大手ゴールドウインとバイオベンチャーのスパイバー(山形県鶴岡市)が8月29日、人工たんぱく質の繊維を使ったダウンジャケットを発表した。石油や動物由来の原料を使わないこの商品。環境や社会への影響を配慮した製品を使おうとする「エシカル消費」をどこまで刺激するか。

 「この日を迎えるのを4年間待ち続けていた」(スパイバーの関山和秀社長)、「4年間、苦労の連続だったが乗り越えることができた」(ゴールドウインの渡辺貴生副社長)──。8月29日に開催されたアパレルの新商品発表会で、両社の代表者はそろって戦略商品を実用化できた喜びを口にした。

人工たんぱく質の繊維を表面素材に使った「ムーン・パーカ」を発表する、ゴールドウインの渡辺貴生副社長(左)とスパイバーの関山和秀社長(右)

 発表されたのは「ムーン・パーカ」。ゴールドウインが手掛ける「ザ・ノース・フェイス」ブランドのダウンジャケットだ。最大の特徴はジャケットの表面素材に、スパイバーが開発した人工たんぱく質の繊維を使用している点。石油や動物由来の原料ではなく、植物や微生物から化学繊維の代表であるナイロンに近い質感や機能の繊維を作り出した。価格は15万円(税別)と通常製品の約2倍で、8月29日に予約受け付けを開始した。6月に発表した、別の構造の人工たんぱく質繊維を使ったTシャツ「プラネタリー・エクイリブリアム ティー」に次ぐ第2弾製品となる。

 ゴールドウインとスパイバーが共同開発を始めたのは2015年。当初は鉄よりも強靭(きょうじん)とされるクモの糸を模倣した繊維を使い、同年10月には「ムーン・パーカ」の試作を発表。当初は16年中の発売を目指していた。

 冒頭の両社のコメントの通り、それから「4年間」かかったのは、ある課題を抱えていたからだ。クモの糸の持つ「超収縮性」と呼ばれる特性だ。水にぬれると大幅に収縮してしまうという特性で、アウトドアウエアの表面素材としては致命的だった。分子構造の段階から見直したことで、ナイロンと同等の性能を作り上げた。

 4年間をかけてまで両社が人工たんぱく質繊維にこだわったのは、サステナブル(持続可能)な社会の実現が、消費行動に結びついてくるとにらんでいるからだ。スパイバーの関山社長は、「地球環境を守ることは、人間の社会の平和に直結する問題だ」と力説する。

第1弾のTシャツは250枚を完売

 実際、欧米では環境などに考慮した商品を使う「エシカル消費」が広がっているが、日本ではどうか。第1弾のTシャツの価格は2万5000円(税別)と通常の商品に比べて4倍近い価格設定にもかかわらず、限定の250枚を超える応募があったという。まだ規模が小さいだけに単純な評価は難しいが、日本でもアーリーユーザーには響いていると言えそうだ。

 「来年もムーン・パーカを新しく進化させていきたい。さらにインナーやミドルウエアの開発も進めている」とゴールドウインの渡辺副社長は明かす。

 普及のネックとなるのが大量生産への対応だ。スパイバーは現在、タイで人口たんぱく質繊維の量産工場建設を進めているが、本格稼働は21年。「将来はコットンやウール並みの価格に近づいていける」とゴールドウインの渡辺副社長は話す。ただ現在は小規模生産のため、第2弾のダウンジャケットも50着の限定販売で、15万円という価格も「採算は合っていない」と関係者は明かす。

 「非常に数は少ないが、この先の未来のスタートラインに立てた」。会見の最後でスパイバーの関山社長は力説した。消費者の意識を喚起しつつ、どう商品ラインアップを拡大していくか。21年の工場稼働まで、両社は我慢のマーケティングが続くことになる。

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