360度の全方位を撮影できる小型の全天球カメラ「THETA(シータ)」を手掛けるリコーは8月28日、宇宙空間で使える小型の全天球カメラを宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同開発したと発表した。9月に打ち上げ予定の補給機で国際宇宙ステーションに運び、宇宙空間で撮影した全天球映像を地上に送信する。

発表会には天体観測好きを公言するリコーの山下良則社長(右から2番目)が登壇した
発表会には天体観測好きを公言するリコーの山下良則社長(右から2番目)が登壇した

 「シータに対する顧客からの信頼度が相当高くなるはずだ」。天体観測が好きだと公言するリコーの山下良則社長は8月28日に開いた発表会で、シータを宇宙に飛ばすプロジェクトの波及効果についてこう述べた。信頼性や耐環境性に対する要求が高い宇宙空間で使ってみせることで、交通インフラや工場、街の中などでの記録に応用したいと考える顧客に信頼性を示せると期待する。

 世界に先駆けて2013年に全天球カメラを発売したリコー。その場の空気感を残せるカメラとして注目され、不動産仲介サービスにおける部屋の360度映像の提供などにも使われてきた。「現時点ではトップシェアだと認識している」(リコーのSV事業本部長を務める大谷渉執行役員)。しかし、シータや関連サービスを含む「Smart Vision事業」は決算の「その他」セグメントに含まれ、販売台数も非公表だ。

 シータや関連サービスの販売を増やすために期待するのが産業用途だ。「周囲全体を写しておくシータなら、後から『ここを見たい』という要望にも応えられる」(大谷執行役員)のが強みだ。ただし、民生用のカメラとして開発してきたため、振動や雨水、ほこりが多い場所に置く場合には不安が残る。

 その不安を払拭するうってつけの場として転がり込んだのがJAXAからの提案だった。「はやぶさ2」のカメラの開発に携わったJAXA宇宙探査イノベーションハブの澤田弘崇主任研究員が「シータを宇宙で使いたい」と申し入れてきたのだ。

ボディーをアルミニウム合金に変えて宇宙空間で使えるようにした
ボディーをアルミニウム合金に変えて宇宙空間で使えるようにした

 宇宙空間の温度や放射線に耐えられるようにボディーをアルミニウム合金に変え、内部のソフトウエアも大きく改修した。ソニーコンピュータサイエンス研究所とJAXAが国際宇宙ステーションで実験する小型衛星光通信装置「SOLISS(ソリス)」の機構動作を確認するカメラとして使うほか、全天球の静止画や動画を撮影して地上に送信する。JAXA宇宙探査イノベーションハブの川崎一義副ハブ長は「カメラを構えて撮るものとは違う、思わぬ現象が撮れるかもしれない」と期待する。

 「失敗できないとドキドキしている」。リコーの山下社長はこう発言して発表会を盛り上げたが、シータへの信頼の獲得というミッションでも失敗は許されない。

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