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 国産初の遺伝子治療薬として3月に承認された「コラテジェン」の薬価が約60万円に決まり、9月から保険診療の中で使われ始める。開発企業のアンジェスは2002年に東証マザーズに上場した、老舗のバイオベンチャーだ。創業以来20年に及ぶ苦難の道を乗り越えてようやく発売のめどを付けた今の思いを、アンジェスの山田英社長に聞いた。

 厚生労働省は8月28日に中央社会保険医療協議会(中医協)を開催し、国産初の遺伝子治療薬として3月に承認されたアンジェスの「コラテジェン」(ベペルミノゲンペルプラスミド)の薬価を、60万360円とすることで了承した。9月4日に薬価基準に収載され、保険診療の中で使えるようになる。

厚生労働省の中央社会保険医療協議会が国産初の遺伝子治療薬の薬価を決めた

 コラテジェンは、肝細胞成長因子(HGF)という生理活性たんぱく質の遺伝子の配列を持つ環状のDNA分子からなる医薬品。これを下肢に注射すると体内でHGFたんぱく質が作り出され、その働きで血管を新生する。今年3月に厚労省から、足の血管が詰まって生じる慢性動脈閉塞症による潰瘍の改善を効能効果として条件期限付きの承認を得ていた。遺伝子治療薬としては、1回3349万円の薬価が付いて注目されたノバルティスファーマのキムリアと同じタイミングでの承認だ。

 キムリアは体外に取り出した細胞に遺伝子を導入して体内に戻すタイプの遺伝子治療薬で、体内に直接遺伝子を入れるタイプではこれが国内初の製品となる。

 ただし、キムリアの薬価は5月に決まり、同月から保険診療の中で使えるようになったのに対して、コラテジェンの薬価の決定は遅れていた。5月にアンジェスは「販売準備に時間を要しており販売開始を延期する」と発表している。当初の想定よりも3カ月ほど遅れてようやく発売のめどが付いた格好だが、60万円の薬価は投資家の予想を下回っていたようで、薬価の見通しが報じられた27日にアンジェス株はストップ安となり、28日の終値も前日より15%以上下落して660円となった。

 これに対して山田社長は、「キムリアに数千万円の薬価が付いていたので、もっと高い薬価が期待されていたのかもしれない。ただ、60万円というのは1回の投与にかかる薬価で、治療には最低2回、場合によっては3回の投与が必要になる。また、コラテジェンは遺伝子を導入するためにウイルスベクターの技術は利用せず、プラスミドという技術を利用している。このため、低コストで遺伝子治療薬を製造できる。だから原価計算方式によって薬価は60万円に決まったが、遺伝子治療の中にも安価に製造できるものがあることを知ってもらいたい」と語る。

アンジェスの山田英社長

 プラスミドというのはDNA分子のことで、実はプラスミドを用いた遺伝子治療薬はコラテジェンが世界初だ。HGF遺伝子を使った遺伝子治療も世界初だし、血管新生の作用を示す遺伝子治療も世界初。「コラテジェンは1つの日本初と、3つの世界初を実現した製品だ」と山田社長は胸を張る。

 ちなみに、プラスミドを利用した遺伝子治療の利点は、2週間ほどは体内でたんぱく質をつくり続けるが、4週間後には消えてしまうことだ。このためウイルスベクターを利用する遺伝子治療よりも高い安全性が期待されている。

 一方で、薬価60万円に対して国内患者数はピーク時でも1000人程度。1人に2回投与しても、市場規模は12億円と小さい。これだけ市場が小さくなったのは、効能効果が「慢性動脈閉塞症」そのものではなく、「慢性動脈閉塞症における潰瘍の改善」となったためだ。臨床試験では、潰瘍の改善については高い有効性が見られたが、痛みの改善など、他の指標はデータが十分でなかったため、今回の承認は条件期限付きの承認となり、今後、製品を使用した患者120人、しなかった患者80人のデータを集めて、5年以内に本承認を得る必要がある。「5年間は本承認の取得にまい進する。本承認を取得すれば、対象となる疾患を広げる機会も出てくるだろう。そうすれば市場は広がる」と山田社長は見ている。

 コラテジェンはアンジェスが創業した1999年から一貫して手掛けてきたプロジェクトであり、山田社長も2001年に入社してからずっとこのプロジェクトに関わってきた。08年には一度承認申請するものの申請を取り下げて試験を追加し、申請をし直して今回の承認に至った経緯がある。この間、当初パートナーだった第一三共からは契約を解除され、田辺三菱製薬と新たに提携して開発を継続した。相当の苦難の道だったわけだが、山田社長は、「このプロジェクトは最後までやり遂げようと迷いがなかった。だからそんなに苦労をしたとは感じていない。次はより市場の大きい米国でコラテジェンの承認取得を目指す」と、あくまでも意欲的だ。

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