(写真:shutterstock)
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 大企業の社員らが加入する健康保険組合の全国組織、健康保険組合連合会(健保連)は8月23日、スギ花粉などによるアレルギー性の花粉症の治療薬について、医師の処方が必要ない市販品で代替することによって年間最大約600億円の保険費用削減効果が見込めるとの試算を公表した。健保連は市販薬で代替できる花粉症薬については「保険適用からの除外や自己負担率の引き上げを進めるべきだ」と提言。これを受け、SNS(交流サイト)上には「保険適用外はありえない」といったコメントが相次いだ。

 提言の中で健保連は、厚生労働省の調査をもとに、花粉症は「(病院への)外来患者が多いのに対し、一件当たりの医療費が小さい」との傾向をまとめている。東京都の調査では、花粉症の人の割合は2016年度で45.6%に達するとされる。日本臨床検査薬協会によると、スギ花粉症による医療関連費用と労働への影響などによる社会的コストは年間3000億円を超えるという。

 花粉症の患者が増えた背景には国の林業政策がある。第2次世界大戦後、日本は森林の荒廃に対し、成長の早いスギの植林を進めた。そうして植えたスギの成長は住宅用などの木材供給に貢献した側面は確かにあるが、スギ植林の広がりが花粉症患者の増加を招いたことは否めない。

 まさに「国民病」とも言える花粉症。治療薬が健康保険の適用外となれば、患者が窓口で支払わなければならない薬代は増えるだけに、ネット上で「困る」「つらい」といった意見が声が出るのも当然だろう。ただ健保連は提言の前提として、窓口負担が3割の患者が医療機関を受診して薬を処方してもらった場合の診察代などを含む自己負担額と、市販薬の購入費用には大差がないと指摘している。

 ただ、600億円の保険費用削減効果は日本全体の医療費の1%にも満たない。厚労省によれば、13年度から17年度にかけて日本全体の医療費は39.3兆円から42.2兆円に増えている。約3兆円増えた医療費のうち75歳以上の高齢者にかかる医療費の増加は1.8兆円を占める。

 健保連が提言するような薬にかかる費用の削減は必要で、できる部分からやるべきだとの主張も理解できる。ただ、高齢化によって増加を続け、42兆円を超えている日本の医療費の全体像を直視することは必要だろう。多くの国民が悩まされている花粉症を巡って起きた議論は、日本の医療制度のあり方を改めて考える契機になるかもしれない。

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