香港の中心部で8月18日、民主派団体「民間人権陣線」主催の大規模抗議集会が開かれた。主催者発表では170万人が参加。これは香港の人口の5分の1強にあたる数だ。市民を武力で負傷させた警察の責任追及や、逃亡犯条例改正案の完全撤回、普通選挙の実施などを訴えた。

当初はデモ行進の許可を得られず集会として開催されたが、参加者が会場に入りきれずデモへと移行したという。毎週末のデモでは警察とデモ参加者の衝突が起き、負傷者が出ていたが、今回は大きな混乱は報じられていない。
民間人権陣線は6月にも200万人が集まったデモを平和裏に実施している。だが、その後の週末デモではデモ隊と警察の衝突が激しさを増し、それにつれて抗議活動はゼネストや公共交通機関の運行妨害など様々な形態をとるようになった。
経済活動や市民生活にも影響が出ており、中国政府が香港に隣接する深センに武装警察を集結させて圧力をかける中で、抗議活動がどれだけ求心力を維持できているかが注目されていた。17日には警察を支持するという親中派の集会が開催されたが、経済への影響が明確に出つつある中でも抗議活動を支持する人が大きく上回っていることを印象付けた。
香港人は中国本土の人に向けて、支持を訴えている。7月上旬には香港と本土を結ぶ高速鉄道の乗客に向けた大規模デモが実施された。その他のデモもプラカードに香港で常用される広東語ではなく、本土で使われる普通語を使用したものが目立つ。
だが、中国本土の人々と話していると、香港人への共感や同情はあまり見られない。中国国内のメディアにおいては基本的に香港のデモは「暴動」として扱われており、中国の国旗を引きずり下ろしたり、本土メディアに所属する記者とされる人物をデモ隊が拘束したりと、愛国感情を刺激するようなシーンが中心に報道されていることも理由だろう。「米国や台湾から資金援助を受けているからデモをしている」といった情報も流れている。
ただ、日本や米国への留学経験を持つなど民主主義や自由主義の価値観を理解している中国本土人でも、香港に対しては冷ややかな見方が多いのは気になる。日本に住んだ経験のある40代の女性は「抗議活動などしても無駄なのに」と話す。
その背景には、これまで中国本土の人たちの間に、経済的に本土を上回っていた香港人に見下されてきたという感情がある。今や中国本土の経済力は香港を大きく上回っている。香港に接する広東省深セン市のGDPは2018年に香港を上回った。
さらに中国本土の人たちは「自由も十分にある」と考えていることが、香港のデモへの理解を妨げているようだ。米国や日本について詳しい50代の男性は「逃亡犯条例にそこまで反対する理由が分からない」と話す。
「中国が自由」との認識は、民主主義と自由経済が当たり前の日本や欧米から見ればにわかに信じがたい。だが、中国本土の人たちの判断基準は「国外との比較」ではなく「自国の過去からの改善」だ。「以前は本当に何も思ったことが言えず、皆が貧しかった。今はそれに比べれば格段に発言も自由になり、経済もよくなった」(40代女性)。香港のデモ参加者の要求が実現するかは、上記のような中国本土の人たちの見方を覆せるかにかかっているとも言えるだろう。
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