憂さ晴らしができない

 もちろんDVという形で表れてはいなくても、夫婦関係に支障をきたしているケースも考えられる。中央大文学部の山田昌弘教授(家族社会学)は自粛ムードが社会を包む中で「夫婦がそれぞれの価値観の違いにいやが応でも向き合わなければならなくなっている」と指摘する。

 山田教授は日本における夫婦の関係について「夫婦関係を良好に保つために、家の外でストレスを発散しているケースも多い」と説明する。家庭内、特に夫婦関係の不満などをキャバクラやバーなどの飲食店、ママ友をはじめとした友人との会食、実家の家族との会話などで愚痴として吐き出すことで憂さを晴らし、家庭内でのバランスが保っている部分もあるのだという。

 しかし、新型コロナの流行で、憂さ晴らしをする環境は一変している。飲食店の多くは自治体などからの要請を受ける形で休業したり、営業時間を短縮したりしてきた。また、営業していたとしても、ソーシャルディスタンスを確保する意識の高まりがある。店側が幾重にも及ぶ感染対策をとっていたとしても、飲食店は従来のように気軽に憂さ晴らしをしに行ける存在ではなくなっている。友人との会食や、実家への帰省も同様で、電話やオンラインでの会話はできるものの、実際に会って不満を吐き出すことはしにくくなっている。

 山田教授はそうした状況の中で「家の中で向き合うことが多くなれば、価値観の違いなどが気になるようになり、トラブルは起こりうる」と話す。

 また、山田教授は生命にも直結しうる新型コロナの感染拡大が、少しの価値観のずれでも大きく増幅させる役割を果たしている可能性があるとも指摘する。例えば、「手を洗う」という行為。「コロナ流行前であれば、夫婦のどちらかが帰宅時などに手を洗っていなくても、『もう』と言って軽く流すことはできた。しかし、手洗いが感染を防ぐ有効な手段とされている中で、手を洗わないことを『家族に感染させてもいいと思っている』と捉える人もいる。そうしたところから、溝が深まってしまう場合もある」という。

 では今後、離婚件数は増えていくのだろうか。山田教授は「価値観が合わないからと言って、すぐに離婚できるというわけではない。双方の同意が必要となるし、調停や訴訟ともなれば時間がかかる」と話し、たちまち急激な増加が起こることは考えにくいとみるものの「じわっと件数を増やす傾向にはなっていくのではないか」と推測。これまで先送りしていた離婚が実行されるとともに、コロナ禍での関係性の変化によって、中長期的に離婚件数が増加する可能性は否定できないという。

 いまだ出口が見えない新型コロナ禍。離婚件数の増減もその1つではあるが、家族関係に大きな影響を与えていることは確かなようだ。

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