「米スプリントは今後、我々にとって(中国ネット大手の)アリババ集団のような存在になる」
8月7日夕刻、ソフトバンクグループ(SBG)の2019年度第1四半期の決算会見。同社の孫正義会長兼社長は、安堵の表情を浮かべてこう語った。SBG子会社で米携帯電話4位のスプリントと同3位TモバイルUSの合併という、孫氏の念願の実現にめどが立ちつつあるからだ。

両社の合併については、対米外国投資委員会(CFIUS)や米司法省(DOJ)、米連邦通信委員会(FCC)から承認を受ける必要があった。CFIUSは18年12月に承認。DOJは19年7月、スプリントの一部事業を売却するなど条件付きで承認すると発表。残るFCCも、委員長が経営統合を容認する旨の声明を19年5月に公表済みで、スプリントとTモバイルUSは今秋までに米当局の最終承認を済ませたい考えだ。
そもそも12年10月に「世界3位だが、いずれ1位になる」とぶちあげ、スプリント買収を発表したときから、TモバイルUSとの合併を狙っていた孫氏。だが14年夏には米当局の反対にあい、17年11月にはTモバイルUS親会社のドイツテレコムとの条件交渉で折り合えず、いずれも破談に終わった。交渉にてこずる間にスプリントの経営状態は悪化し、15年にはTモバイルUSに抜かれてシェア4位に転落する憂き目にもあった。
いわば「3度目の正直」となった今回の合併。だが、その枠組みは、携帯世界一を目指してスプリントを買収した当時の構想とは大きく変わってしまった。ドイツテレコムが合併後の新会社の41.7%の株式を保有し、経営権を掌握。SBGの持ち株比率は27.4%となり、合併後の新会社は持ち分法適用会社となる。
もっとも、スプリントとTモバイルUSの合併新会社が冒頭の発言通り「アリババのような存在」になれるのなら、SBGにとっては願ったりだろう。事実、アリババはSBGにとっていわば「打ち出の小づち」となっている。
例えば19年度第1四半期連結業績でSBGは、アリババ株の売却益と関連する金融派生商品の利益を合わせて約1兆2000億円を税引き前利益に計上した。それだけでなく、保有するアリババ株の11.4兆円もの含み益をてこに巨額調達を繰り返してきた。
だがスプリントとTモバイルUS合併後の新会社がそのような効果をSBGにもたらすかどうかといえば、現状では少々疑問符がつく。新会社の契約者数は2社合計でおよそ1億3000万人規模で、確かにベライゾン・コミュニケーションズとAT&Tという米携帯業界の「2強」に迫る。だがスプリントは足元で契約者数の流出が続き、2強に比べ経営基盤も脆弱だ。今後必要になる「5G」への膨大な設備投資競争に伍(ご)していける保証はない。
「伏兵」の存在もSBGにとっては不気味だろう。米司法省はスプリントとTモバイルUSの合併を承認する条件に、スプリントのプリペイド携帯事業や同社が保有する一部の周波数を米衛星放送大手のディッシュ・ネットワークに譲渡するよう求めている。競争政策上、ディッシュを米携帯電話市場の第4軸に据え、4社体制を維持するためだ。ディッシュはかつて孫氏とスプリント買収合戦を繰り広げた経緯もあり、携帯事業参入への意欲は小さくないだろう。
EC(電子商取引)が本業のアリババは、巨額の設備投資がかからないというインターネットビジネスの利点を生かして急成長を遂げた。一方のスプリント・TモバイルUS連合がなりわいとするのは、大規模な設備投資の継続がものをいう情報通信のインフラだ。5G時代を迎え、果たして「アリババのような存在」になれるだろうか。
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