7月10日に生産を終了した独フォルクスワーゲン(VW)の小型車「ザ・ビートル」の販売が好調だ。販売終了が近づく中、今年1~6月期の販売実績は前年同期比で31%増え、駆け込みで購入する客が増えている。実はビートルのほかにも、販売終了を機に、売れ行きが良くなり、中には復活した製品がある。
ザ・ビートルは2012年に日本で発売され、丸みを帯びた独特のフォルムで「カブトムシ」の愛称でも知られる人気車だ。ナチス・ドイツの国民車構想から1938年に生まれた初代から数えて、3代目にあたる。だが、「次世代の電気自動車も含めたモデルラインナップの最適解を検討する中で、グローバルの決定として生産終了する」(VW日本法人広報)として、18年9月に生産終了が発表された。

VWを代表する車種の1つであるビートルの生産終了のニュースは、消費者に大きな驚きを与え、「なくなる前に買いたい」という気持ちを呼び起こした。生産終了に合わせて、新色や限定色の特別仕様車も用意され、販売台数の大幅増につながった。
販売終了の公表を機に、販売が伸びる商品はビートルだけではない。明治が東日本でスナック菓子「カール」の販売をやめると発表したときは、「カールショック」という言葉が広がり、店頭ではカールが品薄となった。現在は西日本での販売だけで、インターネット上では今でも「久しぶりに食べたくて取り寄せた」「お土産にもらった。うれしい」という書き込みがあるほど人気を集める。
なぜ販売終了を機に、販売が増えるのか。理由は「もう買えない」という消費者の飢餓感だけでない。販売終了がニュースになることで、消費者が商品の存在を再認識することが背景にある。ある食品メーカー幹部は「販売を終えるときだけ思い出してもらうのは皮肉。定期的に買ってくれれば、こんなことにならないのに」と嘆くが、情報氾濫社会の中では、大きなリニューアルなどがない限り、消費者が話題にする機会は少ない。
一方で、販売終了が明らかになっても販売が上向かない商品もある。江崎グリコのガム「キスミント」やデザート飲料「ドロリッチ」は、一時期グリコでも売れ筋商品だったが、最後はひっそりと消えた。
今年8月で国内向け生産を終了する三菱自動車の多目的スポーツ車(SUV)「パジェロ」は、終了に合わせて、特別仕様車を用意したが、販売は前年並みで、ビートルのような駆け込み需要は起きていないという。三菱自動車が過去にスポーツ車「ランサーエボリューション」の販売を終了したときは、駆け込み需要もあったが、「ランエボはコアなファンがいたが、パジェロは違う。終了時にブランドの真価が問われる」(三菱自動車関係者)。
販売終了は社会における自社ブランドの強さの再認識にもつながるのだ。これを機に、自社ブランドの強さを見直し、復活した事例もある。ダイドードリンコは18年春ごろに販売終了した「さらっとしぼったオレンジ」を、19年3月に復活させた。「SNSなどで復活を望む声が多く寄せられた」(ダイドー広報)。

1996年の発売時とは消費者の嗜好やニーズが変化しているため、復活にあたっては、容器の形状や容量、価格を見直した。復活後、発売から1カ月で年間販売計画量の半分近くを出荷した。今もダイドーの全商品の中で売れ筋上位だ。資生堂は18年9月に歌舞伎などの舞台用化粧品の生産を終了したが、SNS上などで歌舞伎俳優らから生産再開を求める声が高まり、生産を再開した。
こうした事例を踏まえると、VWのザ・ビートルも復活の可能性はある。実際に3代目は、1999年に日本で販売が開始され、2010年に終了した2代目の「ニュービートル」の後継車種にあたる。ネット上では、「すぐ次のビートルが出るだろう」と指摘する声もある。
ただ「もう買えない」という消費者心理を逆手に取った商法を取れば、消費者の心が離れてしまうのは間違いない。一方で、別れを惜しむ消費者の声を生かして、商品の改良に努めれば、より強いブランドに育つ可能性がある。
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