米中貿易摩擦の激化で、市場に不安が広がっている。引き金は中国の人民元相場の下落だ。対ドルで1ドル=7元台まで下落したことが、中国政府の元安容認と受け取られた。

 トランプ大統領が9月以降、中国からの輸入品に10%の関税を上乗せすると表明した対中関税「第4弾」の仕返しなのではという見方が広まり、市場は一気にリスクオフモードとなった。米国が中国を「為替操作国」と認定したことも混乱に拍車をかけた。5日の米国市場でダウ工業株30種平均は2万5717ドルと、2カ月ぶりの安値をつけた。

(写真:ユニフォトプレス)
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 1週間前、米連邦準備理事会(FRB)が予定通り政策金利の0.25%の利下げを発表し、市場は安堵しきっていただけに、トランプ大統領が「第4弾」を出したのは想定外だったに違いない。年後半は、クリスマス商戦を含め米国経済を支える個人消費が拡大する時期でもある。具体的な品目はまだ発表されていないが、例外を設けずすべての製品が対象になることをトランプ大統領は示唆している。衣料品や玩具、パソコンなどに10%の関税がかかれば、個人消費が冷え込むのは目に見えている。

 トランプ政権は関税引き上げのカードをちらつかせることで中国から譲歩を引き出し、貿易交渉を有利に進めようとしたのだろう。だがここまでマーケットが過剰に反応するとは思わなかったのではないか。市場では今回の大幅下落を「トランプの誤算」と見る向きもある。

 米政治に詳しい中部大学の酒井吉廣氏は今回の件は「政権のミス」と言い切る。「今後交渉において何らかの合意を出すか、合意が近いということをツイッターなどで伝えない限り、市場下落は収まらないのでは」と見る。三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩・シニアストラテジストも「中国に対するトーンが厳しすぎた。結果、米中対立をめぐる不透明感が助長されてしまった」と分析する。

 混乱の要因を自ら作ってしまったトランプ氏。その「後始末」はどうするのだろうか。ある外資系証券のアナリストは「トランプ氏がいつ中国に歩み寄るか注目している。市場は『催促相場』と化すだろう」話す。もっとも「FRBのせいにするのでは」という見方もある。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘・チーフ投資ストラテジストは「トランプ大統領はFRBに対して(さらなる利下げの)圧力を強めていくだろう」と話す。

 「長期の利下げサイクルの始まりではない」。FRBのジェローム・パウエル議長は、7月31日の利下げ発表時、今回はあくまで予防策であることを強調、9月以降の利下げについては期待しないよう、市場にクギを刺した。だが、今回の大幅下落でトランプ大統領が「混乱が収まらないのはFRBが利下げをしないからだ」などと責任転嫁する可能性は十分考えられる。

 今年6月、米トランプ大統領が対中関税「第3弾」に触れた際も市場が下落し、その後FRBが利下げに言及、その結果市場が沈静化するという流れだった。皮肉なことに、FRBはトランプ大統領が貿易戦争を有利に運ぶ「手段」に成り下がってしまっている。

 FRBが緩和モードへと舵(かじ)を切れば切るほど、金融危機や大幅な景気後退局面などの有事の際に取れる政策手段は少なくなってくる。今回の市場の混乱が「緩和漬け」のドロ沼に片足を突っ込むきっかけになってしまうのだろうか。

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