就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京・千代田)が、サイトに登録した就職活動中の学生の「内定辞退率」を人工知能(AI)で予測し、企業に提供していた問題が波紋を呼んでいる。学生の中には「自分の閲覧記録がサービスとして提供されているなんて知らなかった」と動揺する人も出てきており、柴山昌彦文科相は2日の定例会見で「就職活動に極めて大きな影響を持つ情報が提供されており、学生からすれば予想外だ」と懸念を示した。

就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアは就職活動中の学生の辞退率を人工知能(AI)で予測し、企業に提供していた
就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアは就職活動中の学生の辞退率を人工知能(AI)で予測し、企業に提供していた

 リクルートキャリアは2018年3月から、学生がサイト内で興味のある企業を閲覧した情報を収集し、AIで分析、選考活動や内定を辞退する確率を5段階で評価する「リクナビDMPフォロー」というサービスを有償で提供していた。38社が試験的に利用していたという。

 同社は、学生がサイト登録する際、同意している利用規約に基づいてサービスを提供していたと説明する。だが、政府の個人情報保護委員会などから「利用規約が学生に伝わりにくい」などの指摘を受け、7月末でサービスを一時中止する事態になった。同社は「わかりやすい表現や説明方法を検討し終えるまで休止する」としている。

 問題の背景には、人手不足などにより学生優位の「売り手市場」が続いていることがある。厚生労働省の発表によると、19年3月卒業の大学生の就職率は97.6%と、1997年の調査開始以来、2番目に高かった。

 学生側が企業を選別しようとする動きが強まる中、採用する企業側はより優秀な人材を確保し、つなぎとめようと必死になっている。当然、様々な情報を得ようとしている。採用プロセスの途中で辞退する可能性があるのかといった情報も、企業側にとっては欲しい情報のようだ。

 「期間を区切り、よーいドンで採用活動が始まると、採用日程もかぶるので、人材の取り合いになる。そんな中、50%の確率で内定辞退する人と、5%の確率で辞退する人が採用プロセスの段階で分かれば役に立つ。採用企業側としては、そのデータはのどから手が出るほどの価値があるし、データに基づいた採用戦略も立てられる。同じ評価の学生なら、(辞退する確率が)5%の学生の採用に注力するのが効率的だ」。人事業務の経験がある大手企業の社員はこう打ち明ける。

 新卒の採用に関して、経団連は春の一括採用を見直して年2回以上の採用を行う「通年採用」を進める方針を示している。さらに、求める人材をダイレクトに採用する「新卒スカウト採用」の導入や、大学を既に卒業した20代前半の若手を採用する「第二新卒採用」など、多様な採用形態も広がりつつある。

 今回問題になったサービスを38社が利用していたという事実は、より効率的に優秀な人材を獲得したいという企業側の苦悩を映し出している。と同時に、高度経済成長期に確立した「新卒一括大量採用」の日本型採用形態から、なお多くの企業が脱却できていないことを浮き彫りにしたと言えるだろう。

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