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 東証マザーズに上場する大阪大学発のバイオベンチャー、ステムリムの公募価格が8月1日、1000円に決まった。7月24日に決定した1000円から1700円という仮条件の幅の間には収まったものの、上場承認時に発表された想定仮条件(2370円から3730円)を大きく下回る。なぜ、こんなことになったのか。

 当初の計画では時価総額が最大2000億円近くの大型上場となるはずだった。だが、8月2日に決まった公募価格から計算すると、上場時の株式時価総額は600億円強となる。ステムリムはIPOで当初200億円近くを調達する計画だったが、これも100億円弱と大きく減少する。上場後の戦略は修正を迫られそうだ。

 なお、仮条件を決める段階でステムリムは公募株数を当初計画の600万株から810万株に増やし、売り出し株数を240万株から30万株に引き下げている。

 どうしてこのような事態になったのか。公募価格は通常、主幹事証券の提示に基づいて想定仮条件を決め、上場承認後に機関投資家向け説明会を開催してそのフィードバックを受けて仮条件を決定する。この仮条件に対する投資家からの需要に基づいて公募価格は決まる。つまり主幹事であるSMBC日興証券の価格設定を多くの機関投資家が「高すぎる」と見たため、仮条件を引き下げざるを得なかったわけで、SMBC日興証券の見る目が無かったことが最大の原因と言わざるを得ない。

 想定価格を大きく下回った理由をSMBC日興証券の広報に尋ねると、「進行中の案件なので、詳細なコメントは差し控えたい」とのことだった。一方、ステムリムの岡島正恒社長は、「上場承認後に50社を超える機関投資家に説明して回り、将来への期待の高さは感じたが、バイオベンチャーに投資できる国内機関投資家の層が薄いということだろう」と話す。

7月12日に投資家向け説明会に出席したステムリムの岡島社長

 今回の事態はバイオベンチャーの株価の評価の難しさを表している。バイオベンチャーに限らず、赤字で上場する研究開発型企業の場合、企業価値は売上高、利益などの財務情報では評価できない。このため証券アナリストなどは、将来生み出す価値に基づくディスカウントキャッシュフロー法などで株価を予想するが、バイオベンチャーの場合は研究開発に非常に長い時間がかかり、かつ、開発中の品目の成功確率や市場規模など不明確な要素が多いため、アナリストによって評価が大きく異なるケースが多い。

 しかもステムリムの場合、開発中の品目はそれなりにあるものの動物実験段階のものが多く、臨床試験を実施している品目は2品目のみ。最も先行している品目は、表皮水泡症という希少疾患の治療薬で、承認されたとしても市場規模には限りがある。もう1つの品目は脳梗塞が対象で、契約相手の塩野義製薬が臨床試験を行っているものの、その詳細は不明だ。こうしたことから証券アナリストなどからも、「想定仮条件の価格は高すぎる」という声が出ていた。

 一方、機関投資家からの需要や意見に基づいて公募価格を決めるやり方が実態にそぐわないという声もある。経済産業省が7月に改訂版を発表した「バイオベンチャーと投資家の対話促進研究会報告書」によると、上場バイオベンチャーの株式を機関投資家が保有している比率は1社平均で9%しかない。国内株式市場でバイオベンチャーに投資しているのはほとんどが個人投資家なのだ。

 ステムリムの開発品目は、体の傷付いた部位を修復する作用を持つ幹細胞と呼ばれる細胞を血中に増やすユニークな作用を持つ医薬品だ。つまり、製造コストが安価な医薬品によって再生医療を実現する可能性があり、開発の成功に期待を寄せる声も多い。この会社の価値が、実際に株式市場ではどのように評価されるだろうか。8月9日の株式公開日が注目される。

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