家電分野に注力するアイリスオーヤマ(仙台市)が炊飯器の新商品を8月6日に発売する。これまで商品開発において貫いてきた「引き算」の発想によって、市場で炊飯器の価格が上がってきた一因である圧力機能を省いた。それでも味を楽しめるよう、社内の異分野の技術を応用。東日本大震災を受けて農業支援に重きを置くアイリスが、どれだけ知恵を詰め込めるか挑んだ。
アイリスオーヤマが発売する「瞬熱真空釜炊飯器」は、日本伝統のかまどで炊いた粒立ちのいいご飯の仕上がりを目指した。10万円前後の商品もそろう炊飯器市場で、同社の旗艦モデルだという今回の商品は税込み6万980円(5.5合炊き、参考価格)とした。
炊飯器はどこの家庭にもある取るに足りない家電のように思われるかもしれないが、同社にとっては重みが違う。宮城県に本社を置くアイリスは、2011年の東日本大震災後、東北の農業を支援しようと13年に精米事業に参入。15年には精米の知見を生かして炊飯器事業を始めた。

新商品のキャッチコピーは「本物のかまどはお米をおどらせない」。「おどらせない」というのは、米同士が炊飯器の中で対流してぶつかり、傷ついて粒が立ちにくくなることを避けようとしていることを表す。市場には「おどり炊き」をうたう商品があるが、開発の方向性を探る中でそれとは反対の考え方を打ち出すことになった。
開発に取りかかったのは4年ほど前。炊飯器事業を始めて以降、消費者から粒がもっと立っている米を食べたいという意見が多く寄せられた。勝間浩之・小型家電事業部統括事業部長は「これがお客さまがさらに求めている部分」と確信した。目指す方向として行き着いたのが伝統のかまどだった。

対流させない工夫
かまどのように炊けるとアピールする商品は、すでに市場にある。アイリスは「他社の場合はかまど独特の大火力を再現したり、釜をかまどの蓄熱性に近づけたりとアプローチの方法が異なる。当社は炊飯中に対流を生じさせず、おどらせないことに焦点を絞った」と説明する。
「お米のスペシャリスト」(調理家電課の河阪雅之マネージャー)でつくる開発チームが、新潟県や長野県のかまど炊きご飯の専門店を訪問。釜全体が炎に包まれて一気に加熱されていくメカニズムを具体的に研究した。その中で、かまどの中では米はおどっていない、ということに気づいたという。
アイリス製品も含め一般的な炊飯器では、熱源が釜の底部にあり、上部との温度差が生じやすい。これによって対流が生じる。
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