森永乳業と森永製菓の統合話が再び世間をにぎわせている。共同通信は7月16日、森永乳業が森永製菓との経営統合を視野に諮問委員会の導入を検討していると報じた。森永乳業は同日、「経営統合や諮問委員会の導入を検討している事実はない」と発表した。ただ一時、同社株が急騰するなど市場からの期待が大きいのも事実だ。

森永製菓と森永乳業は本社も同じビルに入る(写真:共同通信)
森永製菓と森永乳業は本社も同じビルに入る(写真:共同通信)

 2社の統合話は2017年にも持ち上がった。生産や物流の効率化、販路の相互活用など統合による効果は大きいとの見方もあったが、両社は報道の翌月、経営統合に向けた検討を終了すると発表。リリースで「それぞれの事業戦略への注力により、経営基盤の強化を図っていくことを最優先すべきという結論に至った」と説明した。

 同じ森永の名前を冠する「兄弟会社」でありながら統合が進まない理由の1つとして考えられるのは、兄と弟の力関係のねじれだ。両社の源流は森永西洋菓子製造所。1912年に森永製菓と改称し、キャラメルをヒットさせると、17年にはキャラメルの原材料を安定的に調達するため、「日本煉乳」を設立した。これが、のちの森永乳業だ。両社は一度合併したが、49年に分社して、今に至る。

 成り立ちから見れば、森永製菓が「兄」で森永乳業が「弟」だ。だが、売り上げ規模で見ると、立場が逆転する。森永製菓の2019年3月期の連結売上高は2053億円。一方、森永乳業の連結売上高は5835億円と「兄」の3倍近くになる。森永製菓が嗜好品の菓子を製造しているのに対し、森永乳業は牛乳など裾野の広い生活必需品を製造しているのが背景にある。こうしたねじれの関係が、統合を難しくしている可能性がある。

 森永製菓と森永乳業のように、兄弟関係になっている製菓会社と乳業会社は実は多い。製菓会社を源流とする中堅乳業メーカーの関係者は「国内市場が縮小して競争環境が厳しくなっている今、製菓と乳業で対立しているところはあまりない」と前置きしたうえで、「昔はたしかに、製菓側に『保守本流』という意識があり、売り上げ規模の大きい乳業とライバル関係にあったと思う」と話す。

 現在は明治となっている旧明治製菓と旧明治乳業も兄弟会社だった。旧明治乳業もキャラメルの原料などを製造する会社として設立された。長らく別々の会社だったが、食品業界の競争激化に押される形で、2009年に経営統合する。明治2社の統合も決して容易ではなかったが、明治製菓が菓子部門に加えて医薬品部門も持っていたため、両社の売り上げ規模の差は小さかった。

 今回の報道について、森永乳業は否定しており、現時点で統合が実現するかは分からない。だが、少子高齢化で国内市場が縮小する中、統合して効率化を図るのは合理的な判断だ。明治製菓と明治乳業が統合して誕生した明治は、食品業界で数少ない1兆円企業となり、利益率の改善を進めた結果、営業利益率を統合時の3倍まで高めることができた。明治の背中が遠ざかっていく中、森永に残された決断の時間はわずかだ。

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