関東地方を中心に記録的な日照不足が続いている。東京都心の日照時間は6月27日から、20日連続で1日当たり3時間を割り込んだとみられる。日照時間が1日当たり3時間を割り込んだ日数は、1961年の統計開始以来最長となっている。
日照不足によるキュウリやナスといった野菜の生育不良がメディアやSNS(交流サイト)で話題となるなか、この先も天候不順が続くとすればコメの生育への不安も出てくる。日照不足で冷夏だった1993年は東北や関東の太平洋側を中心にコメを中心に農業被害が相次ぎ、タイや米国などからコメを輸入して「平成の米騒動」ともいわれた。ただ、現時点ではコメ不足への不安は話題になっていない。それにはいくつかの理由がある。

1つが品種改良の進歩だ。当時、冷害の被害が特に大きかった品種が宮城県を中心に栽培されていた「ササニシキ」だった。「コシヒカリ」に次ぐ、全国2位の作付面積を誇ったほどの銘柄米だったが、寒さには弱かった。ササニシキを中心に作付けしていた宮城県では、93年の水稲の収穫量が19万1100トンと前の年に比べ62%も減ったほどだった。
これを機会にササニシキは急速に作付面積を減らしていった。代わりに伸びたのが、ササニシキより寒冷地に強い品種として作られた「ひとめぼれ」だった。ひとめぼれの全国の作付面積に対する割合は18年産で9.2%とコシヒカリの35%に次ぐ2位になっている。
寒冷地に強いコメ作りが進んだ結果、産地がさらに北に進んだというのが2つ目の理由だ。亜熱帯が原産のイネだが、今では北海道が日本で第2位の大産地となっている。けん引役となっているのが全国5位の作付面積を誇る「ななつぼし」だ。ひとめぼれ系列の品種に、耐冷性に優れた品種を掛け合わせており、いっそう寒さに強い。梅雨のない北海道のなかでも温暖とされる道央の日本海側を主な産地としており、冷夏の原因とされるオホーツク海高気圧の影響は比較的受けにくい地域とされる。
さらに日本人の食生活の変化も見逃せない。農林水産省によるとコメの総需要量は93年度の971万トンから17年度には824万トンと15%減った。家庭におけるコメの購入量はパンや麺類の購入に比べても減少のペースが大きい。「コメがなければパンを食べればいい」。そんな実態に日本人の食生活が近づいているといえる。
日本一の産地である新潟県はコシヒカリの生育は平年並みになるとの見通しを現時点で示している。一方、北海道では6月まで順調だった水稲の生育だが、「7月に入り降水量、日照時間ともに平年より少ない状態になっている」(北海道庁農政部生産振興局)という。とはいえ、我々の口に入るコメが不足したり、20年夏の東京五輪に訪れる訪日外国人を日本産のコメで「おもてなし」できなくなったりする心配は今のところなさそうだ。
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