楽天の三木谷浩史会長兼社長が会長兼CEO(最高経営責任者)を務める楽天メディカル(米カリフォルニア州)が日本で医薬品と医療機器の製造販売業の許可を得たと発表した。同社は現在、開発番号「ASP-1929」という新しいタイプのがん治療法について、国内外で臨床試験の最終段階に当たる「フェーズIII」を実施している。2019年7月1日の事業戦略記者説明会に登壇した三木谷氏は「世界的なヘルスケアカンパニーを目指す」と並々ならぬ意気込みを語った。

事業説明会で、三木谷氏(中央)は写真撮影前に白衣に着替えるほどの力の入れよう(写真左は楽天メディカル社長兼COOの虎石貴氏。右は副会長兼最高科学責任者のミゲル・ガルシア・グズマン氏)
事業説明会で、三木谷氏(中央)は写真撮影前に白衣に着替えるほどの力の入れよう(写真左は楽天メディカル社長兼COOの虎石貴氏。右は副会長兼最高科学責任者のミゲル・ガルシア・グズマン氏)

 30分と短時間だったが、三木谷氏の“思い”がたっぷりと詰まった説明会だった。三木谷氏は、「7年前にすい臓がんを患った父親を救いたい思いから、世界中を探してこの治療法を見いだした」「開発番号の1929は父の誕生年から取った」「父の治療には間に合わないけど、これは可能性があると思った」などと、新しいがん治療薬の開発に挑戦するに至った動機を口にした。

 一方で、「(研究開発だけをやって大手製薬企業にライセンスするビジネスモデルの)他のバイオベンチャーと違って、研究開発から商用化までを一気通貫で手掛けていく」「楽天グループがこれまでにやってきたイノベーションを、医療分野でも起こしたい」「グーグルやアップルもヘルスケア事業に力を入れているように、AI(人工知能)と医療分野は急速に近づきつつある。楽天メディカルを、世界的なヘルスケアカンパニーにすることを目指していく」などと、メディカル事業に対する並々ならぬ意気込みも語った。

 三木谷社長がこれだけ期待をかけるASP-1929とはどういうものか。

 あるタイプのがん細胞の表面に多く見られるEGFRというたんぱく質に結合する抗体と、光が当たると毒性を示すある種の色素とを結合した物質で、楽天メディカルは「光免疫療法」と称している。この薬剤を投与するとEGFRが表面にあるがん細胞に結合し、そこに近赤外光を当てると薬剤が結合した細胞だけを殺し、周囲の正常細胞にはわずかな影響しか及ぼさないというわけだ。

 抗体によってがん細胞だけを狙い撃ちにする「ミサイル療法」と呼ばれる治療法の1つだが、なぜ「免疫療法」と称しているのかはよく分からない。ちなみに、EGFRを標的とする抗体を、別のたんぱく質に対する抗体に取り換えれば、理論的には別のタイプのがんの治療にも使える。その意味で、固形がんに対するプラットフォームの治療法になり得る技術といえる。治療には医薬品だけでなくレーザー照射装置も必要になることから、三木谷氏は「医療機器の開発、販売も手掛けていきたい」と語った。

次ページ フェーズIIIは2021年12月に終了予定