■1分解説
  • ・20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が28、29日の2日間、大阪市で開かれた。
  • ・議長を務めた安倍晋三首相が最重視していたのが、議論の決裂だけは何としても避け、国内外に一定の成果を発信することだった。
  • ・衆院の解散風を吹かせることで与党陣営を引き締め、野党をかく乱させた安倍首相。G20サミットで外交力と存在感をアピールし、参院選になだれ込む。
(写真:ユニフォトプレス)
(写真:ユニフォトプレス)

 大阪市で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が29日、閉幕した。初の日本開催となった今回のG20サミット。貿易や環境分野での意見集約の難航が事前に予想される中、議長を務めた安倍晋三首相が最重視していたのが、議論の決裂だけは何としても避け、国内外に一定の成果を発信することだった。

 世界でも有数の長期政権を背景に着実に高まってきた日本外交の存在感を示す狙いが1点。そして何よりも、世間の注目を集める晴れの舞台でホスト役を演じることで、目前に迫る参院選に弾みを付けたい――。思い描いていたのはそんなシナリオだ。

2017年春から始まっていた「仕込み」

 実は、参院選を念頭に置いた「仕込み」は2017年の春から始まっていた。19年のG20サミットの日本開催が事実上固まり、安倍首相は側近と協議して開催時期を19年夏の参院選直前に設定する方針を早々と決めたのだ。19年の参院選は春の統一地方選と重なることなどから自民党の苦戦が予想されており、直前の外交成果で勢いを付けようという思惑からだった。

 そこで当時、目玉案件と想定したのが中国との関係改善だった。12年の沖縄・尖閣諸島の国有化を契機に一時、日中関係は「国交正常化以来、最悪」とすら評されていた。

 安倍首相は手始めに17年6月、都内の演説で中国が主導する「一帯一路」に条件付きでの協力姿勢を表明。その後、経済分野を軸に中国との距離を縮め、米国との貿易摩擦で苦境に立つ中国側の事情もあり18年10月、日本の首相として7年ぶりとなる中国公式訪問にこぎ着けた。

 そして今回、G20出席のため来日した習近平(シー・ジンピン)国家主席は20年春の国賓としての再来日を快諾した。安倍首相の側近は「中国との接近には自民党内でも批判があった。安全保障など懸案もなお少なくないが、早めに関係改善に動いたのは正解だった」と語る。

 米国のトランプ大統領も異例の2カ月連続の来日となった。デジタル分野での特別会合でトランプ大統領と習国家主席が安倍首相の両隣に座るよう配置するなど「見せ方」を重視する安倍首相の意向がにじんだ。

 一方、今回取りまとめた首脳宣言は事前に予想されたように、多国間調整の難しさを反映したものとなった。

 焦点だった貿易分野では「自由で公正かつ無差別な貿易・投資環境を実現し、開かれた市場を保つために努力する」と明記した。保護主義的な動きを強める米国の意向を踏まえ、「保護主義と闘う」との文言を2年連続で見送る代わりに、自由貿易の基本原則を打ち出し、体裁を整えるのに腐心した形だ。多国間の枠組みで貿易問題を解決する重要性を示す手段として世界貿易機関(WTO)改革を進める方針も掲げた。

 環境・エネルギー分野では、プラスチックごみによる新たな海洋汚染を2050年までにゼロにする「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を盛り込んだ。海洋プラごみの削減に関する初の国際的な数値目標となる。

 一方、温暖化などの気候変動の取り組みは前進できなかった。地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を表明した米国とそれ以外のメンバーとの溝が埋まらず、それぞれの立場を併記するにとどめた。

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