ナイアンティックとポケモンが共同開発した『ポケモンGO』は、位置情報を用いたスマホゲームとして一世を風靡。登場から3年たった今でも、コアなファンに支持され続けている。
この位置情報ゲームの世界に、スクウェア・エニックスが進出した。2019年6月3日、同社の主力タイトル「ドラゴンクエスト」の世界観を持ち込んだ『ドラゴンクエストウォーク』を発表。ドラクエ世代を中心に期待の声が高まっている。
続く6月6日には、米グーグルが今秋開始する予定のクラウドゲーム配信プラットフォーム「Stadia(ステイディア)」に『ファイナルファンタジーXV』の投入を発表した。米ロサンゼルスで開催されたゲーム関連イベント「E3 2019」でも新作タイトルを発表するなど、攻めの姿勢を続けるスクウェア・エニックスの今後の戦略は。スクウェア・エニックス・ホールディングスの松田洋祐代表取締役社長に話を聞いた。
2019年6月3日、位置情報を使ったスマホゲーム『ドラゴンクエストウォーク(ドラクエウォーク)』を発表した。その後、6月11日~16日まで2万人を対象としたベータ版体験会を実施している。手応え、収益化について教えてほしい。
スクウェア・エニックス・ホールディングスの松田洋祐代表取締役社長(以下、松田社長):かなり完成度の高い状態でベータ版体験会を実施した。ゲーム全体のバランスなどのチューニング作業次第だが、そう遠くないうちに本格的にサービスを開始できるとみている。
ドラクエウォークはおおむねユーザーから好意的な印象を持っていただいていると認識している。ただ、我々にとって位置情報を使ったゲームは初めて。期待半分、不安半分といったところだろうか。
普通に遊ぶのは無料。優位に進めたい場合に課金する「フリー・トゥ・プレイ(F2P)」のビジネスモデルだ。だが、位置情報を活用するゲームのため、実社会と絡んだ収益モデルも検討できる。実際、既に地方自治体から問い合わせが入ってきている。従来とは異なる収益の可能性も同時に探っていきたい。
一方、ドラクエウォークを海外市場へ展開するのは難しいと感じている。地図、位置情報の問題があり、運用も含めてかなりの手間がかかる。日本で開始するだけでもかなりの準備期間を要した。
スマートデバイス/ブラウザーゲーム領域は売上高、営業利益ともに苦戦を強いられている。
松田社長:これまで右肩上がりで伸びてきたが、2018年が厳しかった。既存タイトルは発売とともに減衰していくものだが、新作を投入することで全体の成長を図る計画だった。しかし、出した新作が非常に厳しい結果となってしまった。
そのため、次年度以降につながる施策を打った。開発体制、組織体制を大きく見直した。これまでの組織は小さいチームに分けた開発体制。だが、全体として似たようなタイトルになってしまうという問題を抱えていた。こうしたオーバーラップを解消すべく、散らばっている様々なノウハウを統合して組織を再編した。タイトルも本数も絞ることになるが、それでも我々はユーザーの想定以上のものを目指さなければならない。
米グーグルのクラウドゲームプラットフォーム「Stadia(ステイディア)」が11月、欧米で始まる。『ファイナルファンタジーXV』の投入を表明しているが、同社のプラットフォームをどう位置づけているか。
松田社長:ステイディアについては様々な見方がある。配信プラットフォームの一つとして見れば、我々にとって歓迎すべきこと。ゲームをユーザーに届けるための新たなチャネルが増えるのは喜ばしいからだ。
もう一つの観点は、従来のプラットフォームでは実現できなかったゲームが登場する可能性を秘めているという点だ。従来の延長線上にはない、「クラウドネイティブ」なゲームが生まれることで、新しい体験を作り出せる可能性がある。
ただし、大前提がある。ユーザーがストレスなく遊べる環境を実現できるかどうかだ。映画や音楽などのコンテンツと比べ、ゲームはシステムに対する要求水準が高い。レイテンシー(通信の遅延)については極めてシビアだ。逆に言えば、グーグルからすればそこには大きなチャンスがあるということ。仮に、ストレスのない環境が用意できれば、大きなビジネスチャンスがそこには生まれる。
もちろん、多様化するプラットフォームに対応するのは相応のコストがかかる。ユーザーに対して今以上の体験が提供できるか、我々にとって新たな収益が見込めるか。是々非々で判断する必要がある。でなければ、わざわざ踏み込む必要がない。そういった意味では、クラウドゲームには規模の経済が働くとみている。実用に耐えうるスペックが本当に出せるのであれば、やはりその市場には期待したい。我々としてもクラウドネイティブのゲームを開発していくつもりだ。
地域別に見ると、日本や欧米に比べて、アジア圏が弱い。今後のテコ入れ策は。
松田社長:アジア圏はこれまでパブリッシングを外部企業にお願いしてきたが、2019年からは自社でやる。
従来、アジア圏はゲーム開発拠点として活況だった。これからは市場として拡大していくことを期待している。据え置き型のゲーム機が普及していないこうした市場へのアプローチ手段として、グーグルのステイディアに大きく期待している。もちろん、各国の通信インフラにも依存するだろうが、こうした問題は5年から10年で解決するだろう。(市場開拓において)ゲームのストリーミング配信は一つの解決モデルになるかもしれない。
海外で今後注目している市場は、インド、中東、南米だ。特に以前、拠点を置いていたインドは2018年から再始動。南米、特にブラジルも力を入れる。GDP(国内総生産)や通信環境などの条件が整ってきたタイミングだ。
中東については、もともと日本のコンテンツは非常に人気がある。それぞれの国で見れば人口は少ないが、アラビア語という言語の観点から見ればマーケットは非常に大きく、所得水準も高い。コンテンツの海外展開においては国以上に、言語が意味を持つ。従来のゲームのローカライズといえば「FIGS(フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語)」への対応だったが、実際に話されている言語は、中国語やアラビア語の方が圧倒的に多い。我々のメジャータイトルはこれまでアラビア語に対応していなかったが、今後、対応に力を入れていくつもりだ。
海外向けでは、独立系のゲーム、いわゆるインディーゲームの発掘を目的とした支援プラットフォーム「Square Enix Collective(スクウェア・エニックス・コレクティブ)」を開始して5年が経過している。これまでの成果は。
松田社長:あまり大きなニュースにはなっていないものの、継続的に取り組んでいるプロジェクトだ。コレクティブはクリエイターが出したアイデアをユーザーコミュニティが評価し、ゲームの開発や配信をスクウェア・エニックスがサポートする仕組み。クラウドファンディングで資金調達してもよいし、スクウェア・エニックスが金銭面でサポートする場合もある。
6月11日から13日まで米ロサンゼルスで開催されたイベント「E3 2019」では、コレクティブから『Battalion 1944(バタリオン 1944)』、『Circuit Superstars(サーキット・スーパースターズ)』の2作品を発表した。メジャーパブリッシャーが出さなくても、濃いファンに支持されるタイトルを発掘できていると感じている。
音楽専門レーベル「SQUARE ENIX MUSIC」が6月中旬から、米アップルの「Apple Music」や米アマゾン・ドット・コムの「Amazon Music Unlimited」などのサブスクリプション(定額制)型音楽配信サービスで、「ファイナルファンタジー」シリーズの音楽配信を始めた。この狙いは。
松田社長:音楽のサブスクリプション型配信は継続的なトレンドだ。ゲーム音楽の配信は以前から選択肢として持っていた。
今のユーザーはゲームそのものにとどまらず、その周辺も含めた世界観を楽しんでいる。ゲームコンテンツのポートフォリオを大きくしていくためにも、音楽や舞台などの取り組みに力を入れていく。
7月にはオンラインゲームの『ファイナルファンタジーXIV』の最新拡張パッケージを発売する。オンラインゲームのため、そこにはコミュニティが形成されており、継続的にゲームにかかわっていただいているユーザーが多数いる。発売後、かなりの時間が経過しているにもかかわらず、数字が伸び続けている。
ファンイベントも実施し、コンサートも実施する。何もしなければ数字は下がる。コンテンツは常にアップデートしていかなければならない。
各業界で人材不足が表面化している。エンジニアやアーティスト採用の強化について教えてほしい。
松田社長:我々がどれだけ魅力的なプロジェクト、挑戦できる環境を用意できるかに尽きる。我々は海外にも開発拠点を持っており、人材交流プログラムを用意している。
人材不足が特に顕在化しているのはゲーム業界に閉じないスキルを持った人材だ。例えば、AI(人工知能)にたけたエンジニアなどは他業界との取り合いになる。だが、日本だけに閉じず、グローバルで見れば人材はいるはずだ。我々は海外エンジニアが就労しやすい環境も整えつつある。今後、さらにグローバルでの採用を強化していくつもりだ。
AIやブロックチェーンなど新しい技術への投資状況は。
松田社長:まず、こうした新技術の情報をどう入手していくかが重要だと考えている。ゲーム会社の視点だけで見ていたら、どうしても関連情報の枠内にとどまってしまい、情報に偏りが発生してしまうためだ。
2018年にはベンチャーキャピタル(VC)に対して2500万ドルを投資した。このVCから入ってきた情報を現場に共有し、どのようなアイデアが生み出せるかを検討する取り組みを始めたところだ。別途、テクノロジー企業に訪問する専用部隊も設けた。異なる視点から俯瞰(ふかん)して自分たちの事業とのシナジーを生み出せるようにしていきたい。
2020年3月期の連結業績予想は売上高、営業利益ともにかなり抑えめの目標を立てている。
松田社長:今、どれだけベースとなる継続的な収益を厚くしていくかということに注力している。先ほども触れたように、今のユーザーはゲームそのものに加えて、音楽や舞台といった世界観を多面的に楽しむ。品ぞろえを豊かにし、強力なタイトルの厚みをどれだけ増していけるか。それがライフタイムを長くすることにつながっていく。
新作を生み出すコストはどんどん上がっている。新しい挑戦をするにしても、それに耐えうる収益ベースがなければならない。逆に新規投資ができなくなれば、企業として負のスパイラルに陥っていく。継続的な収益基盤を厚くし、企業体力を上げていかなければならない。
そのために11のビジネス・ディビジョンを4つの開発事業部に再編した。業務効率化に加え、集約的な投資判断ができるようにした。
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