日本将棋連盟は6月20日、将棋の棋譜を自動で記録するシステムをリコーと共同開発したと発表した。これまでは年間3000局にも及ぶ棋譜を手作業で記録してきたが、AI(人工知能)技術を活用して自動化を目指す。将棋界では棋士がAIの活用で実力アップを図るイメージがあるが、棋譜の記録という「裏方」の分野でもAIが活躍することになりそうだ。

「棋譜は棋士にとって戦った証し」。6月20日にリコーと開いた記者会見で、将棋連盟の佐藤康光会長は力を込めた。将棋の技術発展のためにも、ファンが将棋の面白さを確認するのにも役立つ。公式戦のすべての棋譜を残してきた将棋連盟は10万局もの棋譜を持つという。
その棋譜の記録係は、主にプロ棋士になる前の奨励会員が務めている。しかし、「記録係の慢性的な不足が課題になってきた」(佐藤会長)。将棋の人気が高まる中、「叡王戦」「ヒューリック杯清麗戦」などタイトル戦が増えた影響で対局数が増えた。さらに学業との両立を目指す奨励会員が増え、記録係を確保しにくくなっている。将棋連盟の常務理事を務める鈴木大介九段は「1人の記録係が2局を並行して記録する場合もある」と話す。
「こういうのを将棋でもできないかな」。森内俊之九段が目をつけたのが、リコーの技術部門で開発を担当する木曽野正篤氏が趣味で開発したボードゲーム「バックギャモン」の記録システムだ。森内九段もバックギャモンの実力者。その縁で、木曽野氏の記録システムを知る機会があった。
将棋とはあまり縁がなかった木曽野氏だが、実はリコーは将棋の名門として有名だ。将棋部は企業日本一を決定する内閣総理大臣杯で7連覇中。11年からは「リコー杯女流王座戦」を主催してきた。イノベーション本部長で将棋部部長でもある古島正執行役員は木曽野氏の提案を基にリコーとして取り組むことを決定。18年秋から本格的に開発を始めた。
開発した記録システムは、将棋盤の真上の天井部に置いたカメラの映像から、AIが駒の位置を認識する仕組み。将棋の駒の画像を多数準備し、それを学習させてAIを構築した。

リコーにとってはすぐに業績向上につながる取り組みとはいえない。古島執行役員も「特別な技術ではない」と話す。関係が深い将棋連盟の課題解決につなげるとともに、「AIの専門家でなくてもAIを使ったシステムを作れることをお手本として社内に示す狙いもある」(古島執行役員)。
7月から始まるリコー杯女流王座戦の本戦トーナメントから実証実験を始め、20年4月以降の本格運用を目指す。鈴木九段は「記録係なしで対局しても正確に棋譜を記録できる環境が最終的な到達点」と目標を掲げる。藤井聡太七段の快進撃で人気が高まる将棋界の“働き方改革”は狙い通りに進むだろうか。
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