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 日産自動車は6月21日、25日の定時株主総会以降の新体制案を発表した。新たに設置する指名、監査の両委員会のメンバーに仏ルノー幹部が入る。ルノーは日産に求めていた要望が受け入れられたとして、株主総会の全議案に賛成することを明らかにした。

 終わってみれば、落ち着くところに落ち着いた既定路線の「ゲーム」だった。しかしその過程には、しびれるシーンもあった。「独立」を守りたい日産、日産への影響力を高めたいルノー。両社とも20年にわたって築いてきた提携関係を崩す気こそないものの、緊張感はかつてなく張り詰めた。

 発端は欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)が6月6日にルノーに提示していた経営統合案を取り下げた後。ルノーのジャンドミニク・スナール会長が日産にあてた書簡で、新体制の人事にルノーの要望が反映されていないとして、指名委員会等設置会社に移行するための定款変更の議案決議を棄権する意向を示したのだ。

 43%を持つ筆頭株主が意見するのは当然の権利だろうが、ガバナンスの利いた組織体制への移行を決めた5月の取締役会にはルノー出身者も出席していた。6月10日、日産の西川広人社長は「大変な驚き。コーポレートガバナンス強化の動きに完全に逆行するもので、誠に遺憾」とコメント。同日夜には「簡単には妥協できない」と言い切った。

 とはいえ、落とし所を模索する動きは当初から日産内部にあった。スナール氏の要求は「(日産の取締役候補の)ティエリー・ボロレ・ルノーCEO(最高経営責任者)にも委員会のポストを」というもの。「監査委員会にルノー幹部が入るのは望ましくない」という意見はあれ、日産からすると「それ自体はさほど難しくないこと」(関係者)だった。

 西川氏が反骨心をむき出しにした理由はむしろスナール氏の態度にあった。最近までニコニコして日産の経営に配慮を示していた紳士が突如むいた「牙」。スナール氏には、FCAとの統合交渉で冷淡な姿勢をとった日産に対し、力を示したいという思いもあったのだろうが、ガバナンス改革の否定は西川体制の否定にもつながりかねない。

 一方で西川氏にはこんな危機感もあったのかもしれない。日産は今総会に11人の取締役候補を提案しており、このうち「ルノー派」とみられるのは3人だ。現在の定款では、日産の取締役の定員は6人以上。仮にルノーが本気で実力行使に出ようと思えば、選任案への賛否によって自分を落とすことはおろか、「日産派」の取締役候補の選任を阻むことで半数を押さえることもできなくはない――。

 25日の株主総会で、大株主が反対して議案が通らないという混乱は避けられた。ただ、日産とルノーそれぞれの「理想の関係」への思いには乖離(かいり)があること、さらにスナール氏の背後に控えるフランス政府が最後には資本の論理という伝家の宝刀を抜く可能性があることが改めて浮かび上がった。新体制に移っても両社の神経戦は続く。