関西の大手私鉄、阪急電鉄がさまざまな業界で働く人々の言葉をつづった車内広告企画「ハタコトレイン」でネット上の批判を浴びている。特に批判を受けたのが次の文章だ。

 「毎月50万円もらって毎日生き甲斐のない生活を送るか、30万円だけど仕事に行くのが楽しみで仕方がないという生活と、どっちがいいか。」

 月給30万円は少ないとも受け取れる表現に、ネットでは「バブル時代の話か」「30万円もらって楽しくて仕方がないなら万々歳」「15~17万円で頑張っている人が多いのに」といった書き込みが相次いだ。

 阪急電鉄広報部によると「ハタコトレイン」は同社と、企業のブランディングなどを手掛ける「パラドックス」(東京・港)が共同で実施。会社経営者やエンジニア、営業職など、さまざまな業界・職種で働く人たちが語ったフレーズからつくられた広告が阪急電鉄の神戸本線・宝塚本線・京都本線などの1編成をジャックする、という企画だった。

阪急電鉄の車両内を働く人たちの言葉で埋め、通勤客を応援する狙いだった(写真:共同通信)
阪急電鉄の車両内を働く人たちの言葉で埋め、通勤客を応援する狙いだった(写真:共同通信)

 フレーズはいずれも、経営者らのインタビューなどでの発言をパラドックスが書籍化した「はたらく言葉たち」から引用されている。同社によると、書籍は毎年刊行されており、現在までに8巻が出版されている。1巻あたり、100以上の企業から集まった200から300のフレーズが収録されているという。今回広告として掲出したのはその中から両社が厳選した80の言葉だった。

 ネットでは「毎月50万円~」のフレーズ以外にも40代外食チェーン経営者の言葉として掲載した「私たちの目的は、お金を集めることじゃない。地球上で、いちばんたくさんのありがとうを集めることだ。」も「ブラック企業の宣伝?」などと批判された。

 阪急電鉄広報部によると6月11日までに電話やメールで苦情が30件ほど寄せられたという。当初は6月末までの企画だったが、ネットなどでの批判を受け、同社は11日に広告掲出を取りやめた。

 「働く人たちを応援したかった」。阪急電鉄の広報担当者は今回の広告の狙いをこう話す。「一つひとつのフレーズは会社の広告基準にのっとって選別したが、いろいろなとらえ方があるということに配慮が足りなかった」

 また、パラドックスの広報担当者は「50万円というフレーズに関しては金額ではなく、やりがいの大切さを伝えたかった。すべての言葉が全員に好かれるわけではないと思っていたが、まさかここまで反発が強いとは予想していなかった。想像力、配慮が不足していた」と話す。

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