ジャパンディスプレイ(JDI)は2019年6月12日、工場閉鎖や人員削減、経営執行体制の刷新を含む構造改革を発表した。スマートフォンやタブレットのディスプレー事業を縮小して収益の改善を図る。赤字続きで台湾と中国の企業連合からの金融支援受け入れに至ったJDIは、捨て身の構造改革で19年度下期からの黒字体質定着を目指す。

稼働を一時停止するジャパンディスプレイの白山工場
稼働を一時停止するジャパンディスプレイの白山工場

 スマホ向け液晶パネルを製造する白山工場(石川県白山市)の稼働を一時停止する。停止予定期間は7~9月。顧客の動向を見ながら9月末までに再稼働などを判断する。需要が回復しなければ、白山工場の資産について19年度中に400億~500億円の減損損失を計上する可能性があるとした。また、白山工場を再稼働しなかった場合には、工場運営の違約金や補助金返済などで100億~200億円の特別損失が追加で発生する見込みだ。

 スマホ向け液晶ディスプレーの組み立てを担当する茂原工場後工程ライン(千葉県茂原市)は19年9月に閉鎖する。生産設備は売却または除却する。

1200人の希望退職も実施

 人員の削減で年間約200億円の費用を削減する。まず国内の40歳以上の社員(出向者を含む)を対象に希望退職者を募集する。募集人数は1200人で、退職予定日は9月30日まで。JDIの6月1日時点の国内社員数は4635人。白山工場と茂原工場後工程ライン、西日本オフィスの社員については年齢の制限を設けない。JDIは早期割増退職金として7~9月期に約90億円の特別損失を計上する見込み。これに加えて、有機ELディスプレーを手掛けるJOLED(ジェイオーレッド)への出向者は転籍を前提にJOLEDと交渉する。

 役員報酬も減額する。7~12月の6カ月間、社長は報酬月額の60%、専務は50%、常務や執行役員では30~40%を減らす。管理職以上の19年度夏期賞与を25~50%減らし、一般社員は同賞与を約15%減額する。

 構造改革に至った責任を取るため、月崎義幸社長兼CEO(最高経営責任者)が9月30日付で辞任し、10月1日付で新執行体制に移る。橋本孝久社外取締役が取締役会長に、菊岡稔常務執行役員CFO(最高財務責任者)が社長兼CEOにそれぞれ就任する。併せて部門の統廃合や組織のフラット化、管理職ポストの半減を実施し、迅速な意思決定ができる体制を目指す。

  今回稼働を停止する白山工場は、米アップル向けの主力工場であると同時に、JDIの経営の重荷になっていた。建設資金の大半はアップルからの前受け金で賄っており、四半期ごとに一定額の返済が必要。JDIの現預金がある水準まで下がるとアップルが工場を差し押さえられるという契約もあり、「白山工場の建設・稼働に踏み切ったことが経営危機のすべての元凶」とディスプレー関係者が口をそろえるほどだ。

 「経営再建には白山工場を切り離すしかない」とJDI幹部も話しており、再建への重要課題だと認識していた。JDIは水面下で海外のディスプレー大手への売却や出資要請を模索していたもよう。電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手の台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長が視察に訪れるなど、興味を示していた企業もあった。だが、現時点では最終的な合意には至っていない。

 赤字の元凶と言える主力工場の一時停止という奇策に出たJDI。だが、アップルがiPhone向けディスプレーの有機ELシフトを進める中、業界内では「一時しのぎにすぎない」との声も上がる。一時的な稼働停止では根本的な解決にはならないだけに、新経営陣には抜本的な対策が求められる。

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