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 老後の金融資産として約2000万円が必要とする試算を盛り込んだ金融庁金融審議会の報告書が波紋を呼んでいる。6月3日に公表された「高齢社会における資産形成・管理」という報告書で、報道などでは「老後2000万円報告書」とも表現されている。

 SNS上では「年金制度の崩壊を事実上認めた」「年金が出ないなら、これまで納めたお金を返してほしい」という声が相次ぎ、与党・野党議員からも懸念が指摘された。これを受けて麻生太郎金融相は11日、「正式な報告書として受け取らない」と表明。同報告書は事実上の撤回に追い込まれた。

「30年で約2000万円の取り崩しが必要になる」という文言に注目が集まった

 年金制度そのものに対する不安を改めて浮き彫りにした今回の騒動。確かに同報告書では、夫が65歳以上、妻が60歳以上の無職世帯が年金に頼って暮らす場合、毎月約5万円の赤字が出るとの試算を掲載している。その後30年間生きると仮定すると、約2000万円が不足するという計算だ。

 しかし、そもそもこのデータは2017年の総務省の「家計調査」に掲載されたもので、とりわけ新しいデータではない。また、上記の内容は金融審議会の報告書の中では序章の「現状整理」にまとめられており、本論の部分ではなかった。本旨の前提として過去のデータを引用したら、そればかりに注目が集まり、炎上につながったということだ。

 本論にあたる部分では、高齢化や単身世帯の増加、公的年金とともに老後資金の要となる退職金の平均額の減少など、これまでにない社会的変化が起きていると指摘。年金受給額を含めて自分自身の収支状況を「見える化」して、望む生活水準に収入が足りないのであれば、資産運用などの「自助」の充実が必要と訴えている。

 「2000万円」というセンセーショナルな数字の印象とも相まって、「老後の資金は自分で工面すべきだ」「年金に頼るな」というメッセージと受け取った人もいただろう。ただ、年金だけに頼らない資産形成の必要性や、そのために金融リテラシーを向上すべきだという議論自体は以前からあるもので、同報告書は、総論として何か斬新な見解を打ち出したものではない。

 しかし、内容が吟味される前に「序論」が炎上して撤回されたことにより、同報告書にある重要な指摘が顧みられなくなっている。

 認知症の問題だ。