佐渡魚市場で甘エビを取り次いだ岩崎富高さん(53)は「甘エビは1~2日経つと甘みが増すのでこれまで通りでもいいが、ぷりぷりした新鮮な食感を味わいたいなら輸送は速いに越したことはない」と説明。定置網漁などを行う甲斐兵一郎さん(72)は魚介類を新鮮な状態で届けられれば魚価の向上に結びつく可能性に言及し「後継者不足に悩む漁業の立て直しに役立てば」と願いを語る。

 今回の実験は品川駅の1店舗のみへの輸送を試験的に行ったものだが、漁師らの中にはあらゆる魚介類を新幹線で大量に輸送するシステムの確立を望む声もあった。

 だが、そのハードルは格段に高い。理由の1つは新幹線に魚介類を積み込むスペースが現状では少ないことだ。実験では車内販売のスタッフらが控室として使用する広さ1畳ほどのスペースを活用して積載した。今回は輸送したのが甘エビ6kgほどにすぎなかったため、このわずかなスペースでも事足りたが、多くの商品や大型魚は収まりそうもない。

今後は量の拡大が課題
今後は量の拡大が課題

 もう1つは積み込みや荷下ろしに要する時間だ。過密かつ正確なダイヤで運行されている新幹線は、途中駅での停車時間が短いし、折り返し駅では旅客を乗せるまでのわずかな時間に座席の転回や清掃、忘れ物のチェックなどの作業を詰め込んでいる。「あまり多くのものを乗せてしまうと荷物の搬入や搬出に時間を要してしまい、利用者に迷惑が掛かってしまう」(JR東担当者)

 JR東日本スタートアップの柴田裕社長は「我々はあくまで旅客事業がメインだが、鉄道網が役立つのであればとチャレンジした」と話す。トラックのドライバー不足や二酸化炭素の排出削減に向けて鉄道輸送への世間の関心が高まる中、新幹線による物流は九州新幹線を持つJR九州も検討するなど動きが加速しつつある。旅客サービスを維持しながら、物流にもいかに手を広げられるか。手探りの試みはこれからも続きそうだ。

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