
「今朝、自民党金融調査会(山本幸三会長、木原誠二事務局長)でヒアリングし、金融庁に指示しています。過剰な規制にはしません」。
2019年6月7日の昼過ぎ、自民党の平将明衆議院議員はTwitterでこう発信した。平議員が「過剰な規制にはしない」と断言したのは、金融審議会がとりまとめを進めていた「金融制度スタディ・グループ」で議論された「『決済』法制及び金融サービス仲介法制に係る制度整備についての報告(案)」だ。
同報告案にシェアリングエコノミー業界など個人間取引を主事業とする新興企業が一斉に凍り付いた文言があったのは6月7日に報じた通りだ。
金融審議会は2019年6月10日、「金融制度スタディ・グループ」の最終回を開催したが、新興企業に懸念をもたらした文言の一部に変更が加えられた。
もともとの表現は以下の通り。
「債権者が一般消費者である場合については、一般消費者が『収納代行』業者の信用リスクを負担することとなる。そのため、こうした『収納代行』については、利用者保護等の観点から、資金移動業として規制の対象とすることが適当であると考えられる」
収納代行に対して、資金決済法の網を一斉にかけるとも受け取れる表現だったが、業界の懸念を反映して、より詳細で丁寧な説明へと変更された。
「債権者が一般消費者である場合については、一般消費者が『収納代行』業者の信用リスクを負担することとなり、上述のような実質的に個人間送金に該当するようなものは資金移動業として規制対象とすることが適当である」
「他方で、その他の個人間の『収納代行』については、今後、実態について把握を行い、資金移動業の規制の潜脱と評価されるものはどのようなものかについて、きめ細かに検討していくことが重要である」
「その際には、とりわけ、いわゆるエスクローサービスのように、例えば、フリマアプリやシェアリングサービスなどにおいて、利用者保護上、重要な役割を果たしているものについては、そのエコシステムに支障が生じることのないよう特に留意すべきである」
金融庁としての問題意識を明確化
変更のポイントは大きく3つある。まず、資金移動業として規制すべきとしていた対象について、一律で「収納代行」としていた表現を変更。収納代行の中でも「実質的に個人間送金に該当するようなもの」に対象を限定した。
また、金融庁としての問題意識を明確にした。収納代行のスキームを使っての資金移動業の規制逃れを問題視していることを明確化。「潜脱(法の網をくぐる行為)」と評価されるものについて、きめ細やかに検討していくことの重要性を記した。
最も大きな変更点は、消費者保護を目的に収納代行のスキームを利用している事業者を、潜脱目的の事業者と明確に切り分けた点だ。資料の文言では、「フリマアプリやシェアリングサービスなど」と明記しており、個人間取引サービスにおいて消費者間の安全な取引のために収納代行のスキームを用いている事業者の場合、そのエコシステムに支障が生じることのないよう留意すべきとした。
「依然として楽観視はできないものの、当面の懸念が払しょくされた」と新興企業の担当者は胸をなでおろす。シェアリングエコノミー協会の石山アンジュ事務局長は「事業者団体へのヒアリングが一切ないまま進められたプロセスに対して残念に思う。今後も協会として動向を注視していく」と語る。
今後、来年の資金決済法改正に向け、さらなる議論が進められていく。資金決済法の成立時から議論されてきた「収納代行」をめぐる論争は今後も続くはずだ。だが、新興企業による潜脱行為が発生するたびに同じ問題が再浮上することは避けられない。
スタートアップ業界にも自浄作用が求められているといえそうだ。
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「1分解説」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?