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 三菱重工業がカナダの小型旅客機メーカー、ボンバルディアの小型旅客機事業の買収を検討していることが明らかになった。三菱重工にとって、ボンバルディアは今年1月に反訴した相手。係争中の案件を抱えていても、事業を取り込みたい背景には、三菱重工の成長戦略を取り巻く厳しい環境変化がある。

 「買収の検討を三菱重工サイドでしているのは事実。ただし、この件について三菱航空機からのコメントは控えたい」。三菱航空機の水谷久和社長は7日の記者会見でボンバルディアの小型旅客機事業の買収について聞かれ、こう答えた。

会見した三菱航空機の水谷久和社長(左)

 今回、三菱重工が買収を検討しているボンバルディアの事業は、座席数が100席以下の小型旅客機「CRJ」事業だ。ボンバルディアが得意としてきた機体サイズだが、小型旅客機の顧客は格安航空会社(LCC)や地方の航空会社が多い。ある航空業界関係者は「CRJの顧客は規模が小さいため、コストへの意識がシビアになりやすく、採算性は悪いだろう」と指摘する。

 ボンバルディアはより稼げる体質を目指そうと、座席数が100~150席程度の「Cシリーズ」の開発に力を入れていたが、開発費が想定以上に膨らみ、顧客獲得にも苦戦。18年にCシリーズを欧州エアバスに売却し、事業の選択と集中を進めていた。

 しかし、三菱重工とボンバルディアには因縁がある。ボンバルディアは昨年秋、Cシリーズの開発に携わった元社員が三菱航空機に不正に機密情報を流したと主張し、提訴。その対抗措置として、三菱航空機は今年1月にボンバルディアがMRJの型式証明の取得を阻害する意図で違法な反競争的行為をしたとして反訴した。

 そうした関係でありながら、採算性が悪いCRJ事業の買収を三菱重工が検討するのは、三菱重工にとって、小型旅客機事業を成長戦略の柱とせざるを得ないため。

 三菱重工の稼ぎ頭であるパワー事業では、設備投資の手控え感を受けて、ガスタービンの受注が伸び悩んでいる。さらに将来の成長の柱として注目していた原子力発電所事業は、ベトナムの計画が白紙となり、トルコも事実上断念。足元では好調な冷熱やターボチャージャーなどの中量産品事業も「一時的には三菱重工を支えられても、中長期では競争力が低下し、厳しくなるだろう」(三菱重工幹部)。そのため、早期に新たな成長の柱の確立が求められている。

 CRJ事業を傘下に収めれば、MRJ事業では現在手薄なメンテナンス拠点が手に入るだけでなく、安定的な収益を見込むことができるCRJのメンテナンス事業を手がけることも可能だ。開発人員の活用もでき、MRJ事業との親和性は高い。

 三菱重工は2017年1月に5度目のMRJ納入延期を発表して以降、対外的にMRJ事業の黒字化のめどを明らかにしていない。社内から「早く黒字化しろ」という声は強まっており、CRJ事業を傘下に納めることで、MRJ事業の黒字化に向けたスピードを加速させたいとみられる。

(写真:三菱航空機提供)

 しかし、社内からは「黒字化できていない段階での追加投資は特別扱いでは」「ボンバルディアのお荷物事業を引き受けるのは、リスクが高いのではないか」といった声も出ている。昨年夏の「日経ビジネス」特集で、当時の宮永俊一社長がMRJについて「もやが晴れた」と発言していたが、ボンバルディアの買収で再び視界不良になるリスクもある。久しぶりの大型買収案件は難しい舵(かじ)取りが必要とされそうだ。

■変更履歴
掲載当初「型式照明」としていましたが、正しくは「型式証明」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2019/06/10 18:15]
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